コラム

イナゴの大群、新たに大発生の予兆。国連「資金がない。駆除できなくなる」とSOS

2021年01月27日(水)19時47分

マルサビット以外の地域でも状況は似ており「最初のイナゴの波は、町の周りを通過しただけだった。しかし、今回の波は実際に町の中に入ってきた。ほとんどの人が見に来ていたが、人々はとても怖がっていた」。

思い余って、棒を片手に畑に突進してイナゴを追い払おうとした農民が、イナゴの渦に巻き込まれ、救出したこともあるのだという。

農家の人々の努力と、道をも覆い尽くす大群。「家畜・動物もイナゴのせいで死ぬ」と語っている。2020年12月8日アップ(3分52秒)


2100万人に1年分の食料を救った

それでも懸命の努力は、効果をあげてきた。

監視して対応したことにより、160万ヘクタールの土地が処理された(日本の耕地の3分の1強)。

その結果、300万トン以上の穀物が保護された。これは約9億4000万ドル(約976億円)に相当する。2100万人の人々に1年間の食料を供給するのに十分な量が確保された。

(ちなみに、ソマリアの人口は約1500万人、エチオピアの人口は約1億1000万人、ケニアの人口は約5140万人である。大群は国土全土に及んでいるわけではない)。

「私たちは大きく進展することができました。各国の能力は、飛躍的に向上していると言えます。でも、状況はまだ終わっていません」

「私たちは多大な努力をしてきましたし、準備も以前よりずっと整いました。でも、満足してはいけません。我々はリラックスすべきではないのです」と、前述の国連食農機関のバージョン緊急事態・回復担当ディレクターは語る。

さらにローラン・トマ事務局次長は、次のように述べている。

「東アフリカに結集されてきたイナゴ対策機は、現在、十分な装備を備えています。記録的な猛威を封じ込め、抑制し、最終的には終止符を打つことができると信じています」

「各国は記録的な速さで能力を増強しています。群れの数もサイズも大幅に減少しています。東アフリカの国々がトンネルの先に光が見え始めているのに、このような成果を放棄するとしたら、悲劇です」

「今年中に、この急増を収束させることは本当にできるかもしれません。でもそれには、今やっていることを断固として続けていくことが出来なければなりません」

それには資金が必要なのだ。あと3800万ドル(約39億5000万円)。でも国連食農機関には、そのお金が今はないのだ。

ローラン・トマ氏。年始の挨拶。「2021年は、食料システムの対話、戦略的思考、そして変革の年になるべきです。今年我々は、より良い生産・栄養・環境と生活を推進するために、結果と効率性に焦点を当てます」
プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story