コラム

中国にロシア...「お墨付き」与える国々が加速させるタリバンの「復讐殺人」

2022年05月17日(火)17時21分
タリバンの外交関係

会議に参加したパキスタン、中国、タリバン政権の各外相(3月) XINHUA/AFLO

<アフガニスタンを制圧したタリバンと外交関係を結ぶ国が増えるにつれ、差別や迫害といった問題が解決される可能性は失われる>

イスラム過激派組織タリバンが武力でアフガニスタンを制圧してから8カ月以上がたつが、タリバン政権を正式に承認した国はまだない。一方、タリバンの任命した「外交官」をアフガニスタンの代表として認めた国は既にいくつかある。中国、パキスタン、トルクメニスタン、そしてロシアだ。

タリバンの報道官は4月、タリバンの任命したジャマル・ガルワル代理大使がアフガニスタンの在モスクワ大使館を引き継いだと発表。ロシア外務省報道官はこれを「本格的な外交関係の再開に向けた一歩」と述べた。

アメリカをはじめとする西側諸国はタリバンに対し、女性やマイノリティーなどの人権保障や包括的政府の樹立を要請してきた。それらの条件が満たされなければタリバン政権を承認しないという立場だ。しかしタリバンと外交関係を結ぶ国が増え始めたことにより、国際社会の足並みは顕著に乱れている。

中国の王毅(ワン・イー)外相は3月末、タリバン政権について「情勢の安定や人権の保障などに努め、一定の成果を収めた」と評価した。しかし現実は異なる。ニューヨーク・タイムズ紙は4月、タリバンの政権掌握から6カ月間に約500人の前政府関係者とアフガン治安部隊のメンバーが殺害されたか、もしくは失踪したと報じた。

自ら暴力に手を染めている

恩赦を約束した相手に対し、タリバンが実際は復讐殺人を続けている実態が垣間見える。国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルなどは、少数民族ハザラ人の虐殺や強制退去についても報告している。タリバンは治安を維持するどころか、自ら暴力に手を染めているのだ。

ハザラ人は過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロの標的にもされている。2021年10月にはクンドゥズ州のハザラ人モスクで発生した自爆テロにより50人以上が死亡。今年4月にはハザラ人を標的としたテロが10日間に5件発生した。タリバンはあらゆる民族を保護すると約束したが、ハザラ人は保護されてなどいない。

タリバンは今年3月には女子の中等教育の再開を許可するとしていたが、この約束もほごにした。女性は男性親族の付き添いなしでの長距離移動や飛行機搭乗も禁じられている。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story