コラム

静かに進む「デジタル植民地化」──なぜ日本はデジタル主権を語らないのか

2025年11月28日(金)12時26分

現在のデジタル主権とサイバー主権にある致命的な問題

危機を回避するためにデジタル主権に取り組むことが重要なのは当然だが、主としてグローバルノースの民主主義国が掲げているデジタル主権と、中露が掲げているサイバー主権の間には大きな違いを意識しておく必要がある。

グローバルノースの民主主義国が掲げるデジタル主権は、主権を失う脅威への対応がその発端であり、共有されている目的でもある。一方、中露(特に中国)のサイバー主権は国家戦略の中に組み込まれたものであり、国内および国外とシームレスに連携する概念となっている。

両者の違いは国家戦略あるいは国家としてのあり方の中での位置づけの明確さの違いと言える。グローバルノースの民主主義国はいまだ新しい時代の国家のあり方について模索しているが、中国は目指すべき像を持ち、サイバー主権はそこに向かって整備を進めているいくつもの中のひとつにすぎない。

これに対して、グローバルノースの民主主義国のほとんどは中長期的な国家のあり方を実装可能なレベルまで固められていない。その理由はいろいろあるが、それは本題ではないので立ち入らない。

ここで重要なのはグローバルノースの民主主義国では目指すべき国家の姿を実装可能なレベルで共有できていないため、デジタル主権に関する議論はどうしても目先の具体的な問題に終始し、常に後手に回るもぐら叩きとなってしまう。

これに対して、中国のサイバー主権は他の計画と実装可能なレベルで連携できており、目先の問題解決のためではなく、目標達成のための具体的なアクションを行うことができる。

たとえば、以前寄稿した「アメリカのサイバー戦略はなぜ失敗したのか」でご紹介した「統合管理システム」のようにシームレスに国内外の統治システムと認知戦を融合させることは中国だからできたことでグローバルノースの民主主義国では無理である。

中国をほめているわけではないし、どこまでちゃんとできているか甚だ疑問ではあるが、いまのままではグローバルノースの民主主義国は非対称で不利であるのが明らかな以上、他の方法を用いるしかない。デジタル主権というアプローチは他の選択肢のひとつになるかもしれなかったが、現状は過去の過ちを繰り返している。

中長期を見すえた国家のあり方を実装可能なレベルまで決めることは現在の民主主義の仕組み上難しい。特に短期間で変化する技術や国際情勢の中では困難だ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米のホルムズ封鎖、「海賊行為に等しい」とイラン軍

ビジネス

英フィンテック企業ワイズ、ナスダック上場控え国際送

ワールド

スウェーデン政府、エネルギー・燃料補助金を拡充 春

ワールド

米軍機の領空通過許可案を協議中=インドネシア国防省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 2
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 5
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目の…
  • 10
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story