コラム

静かに進む「デジタル植民地化」──なぜ日本はデジタル主権を語らないのか

2025年11月28日(金)12時26分

AIがデジタル主権の概念を変えた

AIの利用が広まるにつれ、AIを制するものが意思決定力と統治能力を持つことになるという認識が広まった。たとえば自国民の多数がアメリカ企業のAIを日常的に利用し、企業や行政でも利用が進み、コード開発もAIで行われるようになった場合、意思決定はAIに左右され、行動の多くはAIに依存するようになる。

また、世界観や事実認識もAIに依存するようになる。

トランプはアメリカの価値観(あくまでトランプが考える)を埋めこんだAI以外は政府機関での利用を認めない大統領令にサインし、中国のAIには中国の世界観に沿った検閲が施されている。そして、どちらの国も自国産のAIを他国にインフラとして輸出しようとしている。(OpenAIのOpenAI for Countriesと、中国のGlobal AI Governance Initiative=GAIGI)

AIはデータに留まらず、世界観の支配まで可能にする。中国が今夏「新質戦闘力」という新しい概念を発表した。それは制脳権(人間の認知、価値観、判断基準までを支配)を中核としたもので、AIを核として展開される。中国ははっきりと人間の意識そのものを支配下におく(制脳権)と宣言したことになる。

AIの普及とインフラ化によって、デジタル主権は人間の価値観や判断基準にまで及ぶことになった。知らないうちに自国民の制脳権を奪われ、植民地化される可能性すらある。この状況でデジタル主権に取り組まない政治家の方がおかしいだろう。

我が国はようやく能動的サイバー防御や認知戦に取り組み始めたが、その前提となる価値観や判断基準を歪められては手の打ちようがない。特にSNS、クラウド、AIを全面的にアメリカに依存している日本は、いつでもアメリカのデジタル植民地になる可能性がある(すでになっているという意見もありそう)。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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