コラム

サウジ対イラン、中東の新たな対立の構図

2018年01月30日(火)19時20分

さらに、近年の中東での危機を特徴づけるサウジアラビアとイランの対立は、2国間だけでなく域内諸問題にも影を落としている。両国の非難の応酬は激しく、突発的な小競り合いから直接的な軍事衝突に発展しかねないとの見方もある。イランに対するサウジアラビアの警戒感は、イラクやシリア、レバノン、イエメンといったサウジ周辺国でイランの影響力が拡大しているとの認識から出ている。近年のサウジ外交はこの極端な脅威認識が背景にあるといっていい。

イランの脅威を喧伝するサウジアラビアから見れば、17年10月に発表されたイラン新戦略で、ドナルド・トランプ米大統領がイラン核合意に対しより強硬な姿勢で臨むことを打ち出したのは頼もしく映ったはずだ。サウジアラビアとイスラエルの接近が噂されるのも同じ流れである。

だが同年12月、この蜜月を台無しにしかねない事態が発生した。トランプが従来の中東政策を大転換させ、エルサレムをイスラエルの首都として公式に承認、米大使館をエルサレムに移転すると発表したのだ。

「アラビア」を国名に冠し、国王が「(メッカとメディナの)二聖モスクの守護者」の称号を用いるサウジアラビアはパレスチナ、特にエルサレム問題の大義を無視できない。実際、サルマン国王はアメリカの決定を厳しく非難する声明を出している。

しかしアメリカを厳しく非難しても、具体的な政策は抑止的に行うというように、パレスチナの大義と現実の反イラン外交の間で綱渡り的政策を取らざるを得ないだろう。

他方イラン、そしてトルコがエルサレム問題で存在感を増したことは間違いない。また中東でアメリカの信頼が失墜しつつあるなか、代わってロシアの影響力が拡大した点も新しい動きとして見ていく必要がある。アメリカのエルサレム首都認定決定に対しては世界中から非難の声が上がっており、既に中東やイスラム諸国では抗議運動が拡大し、死傷者も多数出ている。

ISISやアルカイダなどのテロ組織もアメリカなどを標的とする攻撃を扇動。世界中の米・イスラエル権益に対する脅威が高まっている。またアラブ諸国では米国製品のボイコットを呼び掛ける声が強まっており、こうした動きもボディーブローとして効いてくるはずだ。

経済面で見た場合、大きな変化として、湾岸協力会議(GCC)諸国が財政健全化に向け、18年から(消費税に相当する)付加価値税を導入することが挙げられる。補助金削減なども進められており、GCC国では国民負担が増大することになる。国民の不満を各国がどう処理できるのかがポイントだろう。

また、サウジアラビアの政治・経済上のほとんどの権力を手中に収めたムハンマド・ビン・サルマン皇太子が進める脱石油依存を目指す経済改革「サウジ・ビジョン2030」の行方も注目だ。

18年にはその枠組みで、株式時価総額2兆ドルとも噂される国営石油会社サウジ・アラムコの新規株式公開が予定されている。上場はその5%とされるが、それでも1000億ドル。日本で上場すればそれなりのインパクトになる。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所研究理事。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

MAGAZINE

特集:顔認証の最前線

2019-9・17号(9/10発売)

世界をさらに便利にする夢の技術か、独裁者のツールか── 新テクノロジー「顔認証」が秘めたリスクとメリットとは

※次号は9/18(水)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(2019年9月)

  • 2

    外国人への憎悪の炎が、南アフリカを焼き尽くす

  • 3

    香港対応に見る習近平政権のだらしなさ

  • 4

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 5

    アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

  • 6

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 7

    「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけ…

  • 8

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャ…

  • 9

    ドラマ『チェルノブイリ』、事実がまっすぐ伝えられ…

  • 10

    香港デモはリーダー不在、雨傘革命の彼らも影響力は…

  • 1

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 2

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

  • 3

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

  • 4

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 7

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 8

    韓国男子、性との遭遇 日本のAVから性教育での仏「過…

  • 9

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 10

    2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来…

  • 1

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 2

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 3

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 7

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 8

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 9

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

  • 10

    女性のお腹で次第に成長するしこりは、双子の片割れ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!