コラム

サウジ対イラン、中東の新たな対立の構図

2018年01月30日(火)19時20分

ただし、ムハンマドは経済改革を進めるため、反対派を大量に逮捕するなど、強引に政策を進めており、経済改革や外交政策などで失敗があった場合、国内からの反発で、サウジアラビアが不安定化する危険性も指摘される。日本はビジョン2030推進にも深く関わっており、不安定化すれば日本経済への悪影響も懸念される。

アラブの圧力が日本に?

もう1つ、日本が憂慮すべき点はカタール危機だ。17年6月、サウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトの4国がテロ支援などを理由にカタールと断交。日本は天然ガスの1~2割をカタールから輸入し、サウジアラビアとUAEは日本の石油輸入先の1位と2位を占める。カタール危機は、エネルギー権益更新など重要案件を抱える日本にとってひとごとではない。

日本はエルサレム問題でも微妙な立場にある。武力で一方的に制圧したエルサレムをイスラエルの首都に認定することは、国連安保理決議や国際社会の合意への明確な違反であり、アラブ・イスラム諸国だけでなく英仏など西側諸国も反対している。

アメリカの決定を非難する安保理決議案で、同盟国の日本は賛成に回ったが、いまだ首相や外相による公式の談話・声明は出ていない。このまま低姿勢を保ったままでは、73年の石油危機のときのように、アラブ諸国が日本を米・イスラエル寄りだと見なし、圧力をかけてくる可能性も否定できない。

<本誌2018年1月2&9日号掲載>

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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