コラム

サウジアラビア「要人大量逮捕」は本当に政敵駆逐が目的か

2017年11月27日(月)17時31分

中東最大級のメディアMBCのオーナーだった王子も

一方、王族ではないが、アブダッラー前国王のもと王宮府長官として絶大な権力をふるい、同国王の側近中の側近とされていたハーリド・トワイジェリーも逮捕されたらしい。同様に前国王時代に長く儀典長の地位にあったムハンマド・トバイシーも捕まったとされている。

サルマーン時代になって、MbS主体で王宮府(と皇太子府)の大規模な組織改編が行われると、アブダッラー閥とされていたトワイジェリーは当然、失脚してしまう。もう1人のトバイシーもサルマーン即位後の2015年に解任されている。インターネット上に彼がカメラマンをひっぱたいている動画が流されたのがきっかけといわれているが、トワイジェリーともどもサルマーン国王体制では煙たい存在だったのだろう。

その他、逮捕が噂される王族で、重要人物として名前が挙がったものにアドゥルアジーズ・ビン・ファハド王子がいる。彼はファハド元国王の一番下の息子で、父から溺愛され、一時は国務相をつとめていた。その後政界を離れたあとは、MBCという中東最大級のメディアのオーナーとして活動していた。

彼はわりと頻繁にツイッター(@afaaa73)を更新していたのだが、9月11日を最後に更新がとまっている。したがって、彼の身に何かあったことはあったかもしれないが、今回の腐敗撲滅キャンペーンと関係あるかどうかまではわからない。

しかし、その直前までサルマーン国王といっしょに手をつないでいる写真を投稿するなど、良好な関係をアピールしていたので、仮に逮捕されたとの噂が事実なら、青天の霹靂ということになるだろう。ただし、彼の場合、逮捕されたどころか、逮捕に抵抗したため、殺害されたとの噂まで出ている。

なお、MBCの共同オーナーであるワリード・ビン・イブラーヒームも今回の逮捕者リストに入っているとされる。彼は実は、アブドゥルアジーズ・ビン・ファハド王子の叔父にあたる。ワリードの姉妹、ジャウハラがファハド国王と結婚し、アブドゥルアジーズをもうけたのである。こちらは一蓮托生ということであろうか。

ファハド元国王関連では、加えて、彼の孫にあたるトゥルキー・ビン・ムハンマドの名前も挙がっていた。彼の場合、逮捕を逃れるために、イランに亡命したとの話まで出ていた。たしかに、彼の父ムハンマドは長くサウジ国内でシーア派が集中する東部州の知事をつとめていたので、シーア派との関係はないとはいえないが、よりによってライバルのイランに亡命か、という感じだろう。

サウジのメディアによれば、トゥルキー王子は、サルマーン国王とパレスチナのマフムード・アッバース大統領(11月6日)、クウェートのサバーフ・ハーリド外相(11月23日)との会談に王宮府顧問として同席しており、逮捕説・亡命説は眉唾かもしれない。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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