コラム

フェイスブックのコンテンツ監視員の職場は「搾取工場」――元監視員が激白

2019年06月25日(火)15時45分

「連日、『死』や苦痛や苦悩を目の当たりにし、怒りを覚えた。彼ら(フェイスブック)が動画を放置するからだ」と、スピーグル氏はビデオインタビューで告白。ニュートン記者を前に涙で言葉を詰まらせながら、「動物も人間も救うことができない仕事だと感じた」と語っている。

メンタルヘルスに大きなリスクを及ぼしかねない仕事だが、時給は15ドル。フロリダ州にしては格安とは言えないが、ニューヨーク市やシアトル市の最低賃金レベルだ(ニューヨークでは今年大晦日から15ドルに、シアトルは今年元日から、大手チェーン企業に時給16ドルの最低賃金を課している)。

監視員は、非正規雇用で定期的なレイオフ(解雇)があるなど雇用は安定しない。不潔なデスクなど、オフィス環境も「胸が悪くなるようなもの」(ジョンソン氏)だった。約800人の従業員が共有していた、たった1つのトイレは汚物まみれで、トイレに行く際はオンラインで報告するよう求められていたという。健康上の理由で欠勤が増えていたある女性は、解雇されないよう病気を押して出勤。トイレに行く回数の多さからクビになることを恐れた彼女は、上司から渡されたゴミ箱に嘔吐し、デスクで泣き崩れたという。女工哀史をほうふつさせるエピソードだ。

健康のための休憩は9分

削除すべきかどうかなど、動画の扱いをめぐるフェイスブックの方針が日々変わる中、98%の正確さで、その方針に沿うような判断を下すようフェイスブックから求められていたそうだが、タンパ・オフィスはスコアが低かったという。一日に9分間の「ウェルネス(健康維持)タイム」が設けられ、専門家によるホットラインが提供されていたが、「500本の動画を見た後に、たった9分、カウンセラーと話しても元気になるはずがない」と、ジョンソン氏はビデオインタビューで不満をあらわにしている。

バージの記事のタイトル「Bodies in Seats=イスに座った肉体」は、コンテンツ監視員が厳しい監視の下、「98%」という数字を実現するためのツールのように扱われたことを示唆している。コグニザントにとって、月間ユーザー数23億8000万人(今年3月末時点)を誇る世界最大のパブリッシャーでソーシャルメディア帝国であるフェイスブックから課された数字は、それほど絶対的な意味を持っていたのか。

コグニザントの広報担当者は、バージの記事に関するコメントを求めた筆者に対し、文書で次のように答えてきた。「コグニザントは米国内外で働く4万人超の従業員のために安全で元気が出るような職場をつくるべくまい進しており、職場や従業員の問題に対し、日常的に、プロにふさわしいやり方で対応している。タンパの施設も例外ではない。安全・清潔で、仲間すべての支えとなるような労働環境の確保に熱心に取り組んでいる」

プロフィール

肥田 美佐子

(ひだ みさこ)ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、2006年独立。米経済・雇用問題や米大統領選などを取材。ジョセフ・スティグリッツ、アルビン・ロスなどのノーベル賞受賞経済学者、「破壊的イノベーション」論のクレイトン・クリステンセン、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルやマイケル・ルイス、ビリオネアAI起業家のトーマス・M・シーベル、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、米(欧)識者への取材多数。元『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』コラムニスト。『週刊東洋経済』『経済界』に連載中。『フォーブスジャパン』などにも寄稿。(mailto:info@misakohida.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-オアシス、トヨタ・豊田織機の株保有 買付価格

ビジネス

テスラ株が時間外で約5%高、マスク氏とトランプ氏に

ワールド

タイCPI、2カ月連続マイナス 通年見通し下方修正

ワールド

インド中銀が予想外の大幅利下げ、景気支援へ 預金準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪んだ認知
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    壁に「巨大な穴」が...ペットカメラが記録した「犯行…
  • 5
    脳内スイッチを入れる「ドーパミン習慣」とは?...「…
  • 6
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 7
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 8
    女性が愛馬に「後輩ペット」を紹介...亀を見た馬の「…
  • 9
    韓国新大統領にイ・ジェミョンが就任 初日の執務室で…
  • 10
    ウーバーは絶体絶命か...テスラの自動運転「ロボタク…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 10
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story