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「核被害もっと知るべき」、各国首脳に要請 ノーベル平和賞の被団協会見

2024年10月12日(土)20時17分

日本被団協の受賞から一夜明けた12日、広島市内の平和祈念公園には多くの人が訪れていた。写真は10月12日、広島市で撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Miho Uranaka

[東京 12日 ロイター] - 2024年のノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)は12日午後に都内で会見し、田中熙巳代表委員(92)はウクライナや中東で核兵器の使用リスクが高まる中、活動の「結果は残っているが、期待した通りには発展していない」と語った。「核被害のことをもっと世界の指導者が知るべき」と訴えた。

田中氏は「核兵器によって威嚇をしながら戦争を続ける、今世界の核保有国は軍拡・核拡大に突き進んでいる」と指摘。「人類は自らの発明した武器で滅亡するそういう道を今歩み続けている。止めさせるには核廃絶しかない」と述べた。

日本被団協は、第2次世界大戦中に広島市と長崎市で原爆投下の被害にあった人たちの全国組織で、広島、長崎への原爆投下から11年後の1956年8月に結成された。それから70年近くにわたり、被爆者の立場から核兵器の廃絶を世界に訴えてきた。

米ソ冷戦中には国連の軍縮特別総会に代表団を送った。1990年に湾岸戦争が起きた際は、首脳充ての書簡を携えた代表団が米国やイラクの在日大使館を訪問し、平和的な解決の努力を要請した。また、世界各地に被爆者代表を送り、被爆の実相を語り広げ、写真パンフレット「HIBAKUSHA」の配布などの地道な活動を継続してきた。

会見では日本政府が核兵器禁止条約に批准していないことへの批判も出た。和田征子事務局次長(80)は、抑止力として核保有を正当化するべきではないと指摘し、「私たちがやってきたことこそが抑止力だと思っている」と語った。

同条約は2017年に国連で採択され、21年に発効した。日本は唯一の戦争被爆国ながら米国の「核の傘」に守られている立場で、条約に批准しておらず、オブザーバーとしても会議に出席したことがない。

この日昼ごろ石破茂首相と電話で話した田中熙巳代表委員によると、石破氏は「今の国際的な状況から考えると現実的な手段を取っていかないといけない」などと語ったという。

石破首相は12日午後に参加した党首討論でも、核保有を放棄したウクライナがロシアの軍事侵攻を受けたことを引き合いに出し、「抑止力だけに頼るつもりはないが、現実として抑止力は機能している。どうやって核廃絶につなげていくか、これから先よく議論していきたい」と述べた。

<高齢化、財政難に直面>

第2次世界大戦末期に広島市と長崎市に原爆を投下した米国の歴代大統領のうち、2016年5月に当時のオバマ大統領が、23年5月にバイデン現大統領が広島市を訪問している。日本被団協の坪井直・前代表委員は広島市の平和祈念公園を訪れたオバマ氏と握手し、言葉を交わした。

坪井氏は21年に96歳で亡くなるなど、日本被団協は高齢化とそれに伴う財源問題を抱えている。被団協を支えているのは、被爆者とその2世、支援者だが、会員の減少に直面している。被団協によると、47都道府県のうち11の県が活動を休止・解散した。

別の代表委員の田中重光氏(83)は、「先輩が差別や偏見、健康の不安を抱えながら国内外で被害体験を語ってきたことが、雨水のように浸透して、それが核兵器禁止条約につながった。正しい道を歩んできていたと感じた」と述べた。「ノーベル賞を受賞することがこんなにも影響を与えるということが分かった」と語り、核廃絶をさらに強く訴えることに意欲を示した。

ノーベル賞委員会は、被爆者が目撃証言を通じて核兵器が二度と使用されてはならないことを示したことを受賞理由に挙げている。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は11日、「今年のノーベル平和賞は我々がどのような世界に生きているのかを明確に示している」と語った。

田中重光氏は「核戦争が起きるんじゃないかという国際情勢の中で、政治家に対して何を考えているのかとパンチを与えたかったのではないか」と選考の背景を推察した。

日本被団協の受賞から一夜明けた12日、広島市内の平和祈念公園には多くの人が訪れていた。22歳の女子学生は「私自身は教育を学んでおり、教育を通して平和を実現していくことの大切さを最近認識している」と語った。「(ノーベル平和賞受賞は)インパクトの大きいことだと思っている」と話した。

(浦中美穂 取材協力:Daniel Leussink  編集:久保信博)

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