コラム

米情報機関が予測したAIの脅威......2025年は規制と支援のバランスを真剣に考える年

2025年01月06日(月)08時30分

AIの利益は米中が独占

AIはまた、開発と実用化に必要な資金と技術力を併せ持つごく少数の国と企業に富を集中させる。アメリカならメタやグーグル、マイクロソフト、中国なら騰訊(テンセント)、アリババ、百度(バイドゥ)といった企業だ。

当然のことながら富の分配は一段と不平等になり、上位1%の最富裕層が利益の大半を独占する一方、庶民の多くは生きるすべを失う。AIが世界経済にもたらす利益は30年までに約15.7兆ドルになると推定されるが、その70%はアメリカと中国が独占するとの試算もある。

こうした変化は、とりあえず人間がまだAIを支配している時期に起こることで、善くも悪くも想定の範囲内の話だ。しかし、その先は読めない。AIがどこまで進化し、どうやって人類を支配し、私たちの生存を脅かすのか。そのあたりは未知の領域に属する。

調査会社ピュー・リサーチセンターが世界のAI専門家を対象に、2035年までに予想される「人間+テクノロジー」の進化について聞いたところ、「楽しみなのと同じくらいに心配」だとする回答が42%に上った。「楽しみな以上に心配」という回答は37%で、「心配な以上に楽しみ」は18%にすぎなかった。どうやらAI分野のプロも、NICといった諜報のプロと同じような懸念を抱いているらしい。

それでも私たちは知っている。今さらAIの開発を止めることはできない。知識を追い求めるのは私たちの宿命だ。それが人間の性さ がであり、人も企業も社会も、そして政府もそのために競い合う。

幸いにして、高度なAI開発能力を持つ中国、アメリカ、日本、EUなどの政府はAIの潜在的脅威に対処するための規制を模索しているが、一方でAIの進化を支援してもいる。ただし規制と支援が運よく両立する保証はどこにもない。

果たして未来の「主人」となるのは誰か。AIの造物主たる人類か、それとも狂暴化し、(あのフランケンシュタインのように)もはや腕力でも知力でも及ばない造物主に容赦なく襲いかかるAIか。私たちはまだ、その答えを知らない。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡りトランプ氏との会談求める

ワールド

タイ・カンボジア両軍、停戦へ向け協議開始 27日に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story