「大炎上」アメリカ学生デモはアメリカ社会のイデオロギー戦争だ
正解なき論争、深まるガザの悲劇
3つ目は、アメリカ社会における保守派と進歩派のイデオロギー戦争である。共和党はこの機会を利用して、文化的エリートたちを「反ユダヤ主義」だと批判している。進歩派がキャンパスでヘイトスピーチを容認し、リベラルな思想が公共の安全をむしばんでいると言いたいのだ。
一方、左派の中にも、イスラエルの立場を人種差別主義・植民地主義と見なし、警察によるデモ制圧はアメリカ社会の反パレスチナ的・全体主義的傾向の表れだと批判する人たちがいる。このような見方が反ユダヤ主義の台頭を助長している。
キャンパスに立ち並ぶテントと声高に叫ばれるスローガン、デモを制圧する機動隊、そして右派と左派の人種差別的な主張を通じて、パレスチナ問題に関する議論はますます分かりにくくなっている。
それでも少なくとも言えるのは、大がかりなデモにより、パレスチナ人の苦境に改めて光が当たったこと、その半面でハマスの民族大虐殺的な主張が見落とされていること。そして、互いに決して歩み寄ることのないアメリカの党派対立の下、正解のないジレンマをめぐる論争により、ガザの悲劇がいっそう深まっていることだ。

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