コラム

自称「言論の自由絶対主義者」が買った「おもちゃ」とマスクが取り憑かれる思想

2022年11月07日(月)15時50分
イーロン・マスク

「言論の自由絶対主義者」のマスクはツイッターをどうする? PHOTO ILLUSTRATION BY DADO RUVICーREUTERS

<マスクによるツイッター買収後、大手企業の広告停止が相次いでいる。「言論の自由」に関して、マスクが信奉するシリコンバレーで人気の「長期主義」とは?>

天才エンジニア兼起業家のイーロン・マスクが、新しいおもちゃを手に入れた。10月27日、マスクは2億5000万人以上の登録ユーザーを抱えるソーシャルメディア企業、ツイッターの買収を完了させオーナーになった。

しかし、マスクは子供っぽいナルシシストで、しばしば幼稚なツイートをする人物。表面的な知識と深い洞察力を混同している可能性がある。数百万人に影響を及ぼす立場の人間は発言を自ら律し、自分が理解しているテーマについてのみ話す(あるいはツイートする)べきだが、マスクにはそれに気付ける成熟度もない。

アメリカでは今、偽情報や過激主義が生み出す暴力への懸念が高まっている。多くの人々はマスクが右翼の陰謀論になびき、言論の自由に関する彼の単純な自由意思論者(リバタリアン)風の認識が、社会と政治の安定をさらに損ねる事態を警戒している。

一方、攻撃的な少数派は再びツイッターで暴力を誘発しかねない過激な主張を発信できる可能性に喝采を送っている。マスクは自身を「言論の自由絶対主義者」と呼ぶ。

ツイッターの買収完了からわずか3日後、マスクはナンシー・ペロシ下院議長の夫への襲撃事件について、根拠のない右翼の嘘をリツイート。犯行の背後に同性愛関係のもつれがあったかのようにほのめかした(検察は「政治的動機」に基づく犯行と発表している)。

マスクはシリコンバレーで人気の「長期主義」を信奉している。

これは混乱したリバタリアニズムと、規制のないテクノロジーが社会や文化の問題を解決するという信念が結び付いたものだが、テクノロジー自体が人間を社会的調和に導いたり、真実を見分ける能力を高めることはない。

現代の大きな課題の1つは、ソーシャルメディアを規制すべきかどうか、規制するならどうやるかだ。ソーシャルメディアは重要な社会的空間を支配し、革新的テクノロジーによってあらゆる個人の意見を世界中へ瞬時に拡散できる。

言論の自由が初めて公式に保護されたのは、1787年の合衆国憲法と1789年のフランス人権宣言だが、その自由は絶対的なものではない。米連邦最高裁は1969年、差し迫った違法行為を扇動する言論を発する権利は誰にもないと指摘した。

政治的動機に基づく偽情報や暴力の扇動の爆発的増加を受けて、ソーシャルメディアは自由な言論のプラットフォームとして事実と社会の安定を守るため、一定の「コンテンツモデレーション(投稿監視)」のルールを導入せざるを得なくなった。

ツイッターも、暴力をあおる発言を繰り返したとして当時のトランプ大統領を追放した。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story