コラム

オキナワの現状を地政学で読み解く

2018年09月13日(木)16時00分

091302.jpg

急逝した翁長(中央)は米軍に批判的な姿勢を示したが YUYA SHINO-REUTERS

政治や文化に心情が絡めば、ファクトは置き去りにされがちだ。沖縄県民1万人当たりの犯罪件数が69.7件である一方、米軍人・軍属では27.4件という統計もある。米軍人・軍属による犯罪件数は72年の沖縄返還以降で最低水準にある。それでも、アメリカに親しみを感じない県民の割合は最近になって急増し、40%に達している。

反基地運動には、本土に対する反感という側面もある。もともと琉球人、そして沖縄人には、必ずしも「日本人意識」が根付いているとは限らない。明治時代に強制統合されたこの地は、1945年まで帝国主義的な支配の下に置かれ続けた。沖縄県民にとって米軍基地に反対するのは、かつての「主君」である日本に対して文化的・歴史的独立性を表明する方法でもある。

しかし今や、日米の前には中国という脅威が立ちはだかり、北朝鮮のミサイルは日本上空を通過するばかりかアメリカ本土にも届きかねない。軍事大国に返り咲き、北極圏の海氷融解で航路を拡大するロシアへの疑念も増している。米海兵隊員3万人以上と数十の航空機・艦艇を即時展開する能力を持つ沖縄の米軍基地の存在は、アジアにおける戦略的バランスを日米に有利な形にしてくれる。

同時に、米軍の駐留継続はアメリカによる日本の防衛という概念を具現化し、日本の施政下の領域内で「いずれか一方」が武力攻撃を受けた場合、両国が協力して防衛に当たるとの条文がある日米安全保障条約を活性化する。中国が南シナ海の人工島の軍事拠点化や海軍増強で外洋海軍化を進めるなか、日本政府にとってこの条文が持つ魅力は増している。

19世紀末のハワイと同じ

従属的立場を脱したいと願う沖縄県民の心情には共感するし、かつての日本による支配や沖縄戦、県内に陣取る米軍に憤慨するのも理解できる。とはいえこうした感情は、大国の戦略的要請とされるものの前ではかき消されるのが常。国際関係の不透明度が増している現状では、なおさらだ。

アメリカは1890年代、世界的役割を担うことを求め始め、国際社会で影響力を示すべく海軍力の増強を進めていた。給炭港として目を付けたのが、広大な太平洋の中でも戦略的に最も重要な位置にあり、天然の良港を擁していたハワイだ。

ハワイ王国の女王リリウオカラニと住民の半数はアメリカの動きに反発した(住民の残りの半数は、アメリカへの併合がもたらす経済的利益に心を引かれていた。今日の沖縄でも、米軍駐留の是非についてはほぼ同じ構図が存在する)。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアのLNG輸出、今後4年の停滞想定 経済省の悲

ワールド

ブラジル資源大手バーレ、第1四半期純利益9%減 予

ビジネス

韓国LGエナジー、第1四半期は前年比75%営業減益

ワールド

米、ウクライナに長距離ミサイル供与 既に実戦使用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story