コラム

北朝鮮「スリーパー・セル」を恐れる必要はない

2018年02月20日(火)17時15分
北朝鮮「スリーパー・セル」を恐れる必要はない

北朝鮮はおそらく日本にスリーパー(潜伏スパイ)を送りこんでいるが…… KCNA-REUTERS

<ターゲット国の社会に溶け込む工作員は、殺人や妨害活動を目的としているのではない>

北朝鮮はおそらく、日本の社会にスリーパー(潜伏スパイ)を送り込んでいる。また、イギリスのタブロイド紙デイリー・メールが薄っぺらな記事で指摘したように、北朝鮮は暗号化されたメッセージをスパイたちに送っているようだ。

だが、スリーパーがテロリスト化するだろうか。

日本の国際政治学者・三浦瑠麗が、もし北朝鮮との戦争が始まり、最高指導者の金正恩が「殺されたのが分かったら、一切外部との連絡を絶って、都市で動き始めるスリーパー・セルというテロリスト分子がいる。ソウルでも、東京でも。もちろん大阪でも」と、テレビでコメントしたという。

冒頭で述べたように、日本に北朝鮮のスリーパーがいること、そして北朝鮮が(日本だけでなく)各国にいるスパイに向けて暗号メッセージを送っていることはおそらく事実だろう。だが、日本にいる北朝鮮のスリーパーを恐れる必要はまずない。最悪の場合、1、2人が殺されるかもしれないが、その程度だろう。

かつてイギリスの情報機関トップが、当時CIA諜報員だった私に、自分たちの最大の武器は「神話だ」と言って笑ったことがある。史上最強のスパイ、ジェームズ・ボンドの小説や映画のおかげで、イギリスの情報機関は実際よりもはるかに有能だと思われている。そのイメージが、彼らに大きなパワーを与えてくれているというのだ。

人間は想像力が豊かなだけではない。自分の理解を超える現象を前にしたとき、本能的に筋の通る「ストーリー」を見つけて説明しようとする。そこに不安(この場合北朝鮮との緊張)が加わると、タブロイド紙の記者も教養ある学者も、「北朝鮮のスリーパー・セル」なるものをリアルな不安として大々的に取り上げるようになる。

そもそもスリーパーとは、ある国に長期にわたり送り込まれる工作員のことだ。事前に任務を言い渡されているが、ジェームズ・ボンドのように手際よく任務をこなして帰国するスパイとは違う。スリーパーはターゲット国の社会に完全に溶け込み、本国から指示があるまで、ひたすら「普通の生活」を送る。

一般に、全体主義的な国は民主主義国よりも、スリーパーをたくさん使う傾向がある。工作員にとっても、民主主義国での長期生活には魅力が多い。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、公の場で初のマスク姿 軍の病院訪問

ワールド

トランプ大統領、公の場で初のマスク姿 軍の病院訪問

ワールド

焦点:アフリカで「静かな感染拡大」、深刻なコロナの

ワールド

焦点:膨張する中国企業の鉱物資源買収、豪加当局が「

MAGAZINE

特集:香港の挽歌

2020-7・14号(7/ 7発売)

国家安全法で香港の自由と繁栄は終わり? 中国の次の狙いと民主派を待つ運命

人気ランキング

  • 1

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3.5m超える

  • 2

    生き残る自動車メーカーは4社だけ? 「ゴーン追放後」の日産にXデーが迫る

  • 3

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

  • 4

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 5

    金正恩の「拷問部隊」にイギリスが下した鉄槌

  • 6

    宇宙の真理にまた一歩近づく、画期的なX線宇宙マッ…

  • 7

    「自粛要請」で外出を控えた日本人は世界に冠たる不…

  • 8

    東京都、新型コロナウイルス新規感染206人 3日連続2…

  • 9

    「カザフスタンで新型コロナより深刻な肺炎が流行」と…

  • 10

    インドが中国製アプリ「TikTok」を禁止した本当の理由

  • 1

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

  • 2

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 3

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める

  • 4

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3…

  • 5

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 6

    生き残る自動車メーカーは4社だけ? 「ゴーン追放後…

  • 7

    孤立した湖や池に魚はどうやって移動する? ようや…

  • 8

    「香港国家安全法」に反対の立場を取ったトルドーに…

  • 9

    新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究…

  • 10

    どこにも行かない台湾の「なんちゃってフライト」、…

  • 1

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

  • 2

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 3

    国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉

  • 4

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求…

  • 5

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3…

  • 6

    世界最大の中国「三峡ダム」に決壊の脅威? 集中豪…

  • 7

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 8

    孤立した湖や池に魚はどうやって移動する? ようや…

  • 9

    東京都、新型コロナウイルス新規感染107人を確認 小…

  • 10

    ポスト安倍レースで石破氏に勢い 二階幹事長が支持…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!