コラム

『シン・ウルトラマン』を見て的中した不安

2022年05月18日(水)10時36分

2014年の東京国際映画祭に勢揃いしたウルトラ兄弟 Yuya Shino-REUTERS

<ウルトラマンのファンとしては感動ものだが、筆者は、『シン・ゴジラ』のように何度も何度も絶叫しながら見たいとは思えない>

話題沸騰中の『シン・ウルトラマン』を劇場公開初日(5/13)に見てきた。鑑賞前の最大の懸念点は、本作の監督が『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(前編)、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』(後編、いずれも2015年公開)を手がけた樋口真嗣氏であったことである。この『進撃の巨人』実写版については、興行成績が如実に示す通り、前編と比較して後編が圧倒的に劣後した。

つまり前編の評価が芳しくなく、後編の客足が鈍ってしまったのだ。この『進撃の巨人』実写版は、一部から『北京原人 Who are you?』(1997年)に並ぶ「アレ」な感じであるとの酷評もあった。脚本や俳優の活躍は良くとも、映画演出が極めて稚拙な場合、こういった評価点をも帳消しにする「ハプニング」は稀に見られる。

結論を言うと、本作『シン・ウルトラマン』は、『進撃の巨人』実写版に付きまとった、脚本や俳優の活躍を帳消しにする目立った映画的演出の致命的瑕疵は無く、原作『ウルトラマン』(1966-67年)に対して馴染みの薄いユーザーでも、概ね楽しめることができるようになっている。勿論、往年の『ウルトラマン』に愛着のあるユーザーならば、「そうきたか」「リスペクトが凄い」と唸らせる描写が全編にわたって頻出し、原作の素晴らしさを令和的にトレースしたという点においては、ウルトラマンのファンであればあるほど、何度も楽しめるという利点を持っているといえる。

「意欲作」ではあるが

しかしながら、「ファンであればあるほど楽しめる内容」というのは、諸刃の刃である。なぜなら、それは「原作のファンであることを前提にした描写は、原作のファン以外には伝わりづらい」という自明のテーゼを内包しているからだ。要するにそれを「内輪受け」と呼ぶ。例えば私は押井守先生の大ファンなので、『スカイ・クロラ』(2008年)を手放しに絶賛したが、所謂「押井ワールド」の洗礼を受けていない、予備知識を持たない観客がこの絶賛を見たときに、同意しかねる部分が多々あった「かも」しれない。

『ウルトラマン』について、大きな予備知識を持つファンは当然『シン・ウルトラマン』を絶賛する傾向が強い。絶賛するだけに足る緻密というべきオマージュが全編に亘って登場するのだから当然である。しかし、それに疎い観客が見たとき、つまり純然たる一個の映画としてみたとき、本作を「傑作」と評するには及ばない映画的演出の瑕疵は、致命的とは言わないまでも観客に少なくないしこりとして引っかかったのでは無いか。結論として私は、『シン・ウルトラマン』を「努力作」「意欲作」という風に評せざるを得ない。残念だが「傑作」とは呼べない。『シン・ゴジラ』と違って、二回以上、何度も何度も絶叫しながら見たいとは思わない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日米韓が合同訓練、B52爆撃機参加 3カ国制服組ト

ビジネス

上海の規制当局、ステーブルコイン巡る戦略的対応検討

ワールド

スペイン、今夏の観光売上高は鈍化見通し 客数は最高

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story