コラム

『シン・ウルトラマン』を見て的中した不安

2022年05月18日(水)10時36分

<ご注意ください。以下、ネタバレがあります>

原作『ウルトラマン』の人類側組織としての主人公は当然「科特隊(科学特捜隊)」なのは言うまでもない。『シン・ウルトラマン』ではそれが「禍特対(禍威獣特設対策室専従班)」に置き換わっている。この「禍特対」の本部がどこにあるのか、本作ではその位置関係が最後まで明示されていない。防災庁の下部組織という設定であるが、では防災庁が何所にあるのか、永田町なのかそれ以外なのか。どの建物に入っているのか、また特別に別個の建築物を有するのかを説明する俯瞰カットがないので、「禍特対」のメンバーが何所から出動してどこに帰還するのかが不明瞭である。

これは映画演出上の重大な欠陥である。無論、原作『ウルトラマン』では「科特隊」は固有の巨大ビルを基地として有しており、隊員らが普段どこに居て、どこから出動し、どこへ帰還するのかが明瞭となっている。位置関係の俯瞰的説明は、映画的演出の基本である。

神出鬼没にもほどがある

A地点からB地点へ舞台が転換した場合、A地点とB地点において同一のメンバーが画面の中に登場するならば、点Aと点Bへの合理的な移動方法を演出の中で説明しなければ不自然となる。何故この人たちはここに居るのか。どうやってこの人たちはここに移動しているのか。これを台詞ではなく画面(絵)で説明するのが映画的演出の基本であるが、本作にはそれがないので、「禍特対」の人々の位置関係と、「禍威獣(怪獣)」、それに政府上部組織(総理、防衛省、防災庁、公安等)が空間的にどのような広がりで立地し、人々の群像がどのような動線に従って展開されているのかがまるで分らない。一応、「禍特対」には専用の自動車があるのだが、これがどこから出庫してどの経路で「禍威獣」の前面に到達するのかの描写がないので、カットが切り替わると「禍特対」の人々が点Aから点Bに唐突に出現したような違和感を覚える。

例えば冒頭のシークエンスで、「禍特対」の人々が自衛隊と「禍威獣」対策のための前線指揮を執っているシーンがある。しかしこの前線指揮所も、この場所がどこにあるのかの俯瞰ショットがないばかりか、この指揮所が野外に急造された天幕なのか、付近の自衛隊の駐屯地内なのかの説明演出が希薄なため、「禍威獣」から具体的にどの距離にあるのかという合理的理解がなされない。そこで「禍威獣」に襲われた架空の街で、逃げ遅れた子供を「禍特対」の神永新二(斎藤工・役)が救出しに行く。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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