コラム

保守派に見放された菅政権の1年

2021年09月07日(火)17時57分

第二次安倍政権は、たとえそれがリップサービスに過ぎなかったとしても、「日教組!日教組!」などという国会での揶揄や、「こういう人たち(野党)に負けるわけにはいかないんです」などの反政権・進歩勢力への敵対姿勢、または進歩系メディアへの敵愾心を都度入れ込むことによって保守派からの求心力を不動のものにしてきた。このような刹那的な保守派へのリップサービスは、仮に対露北方領土交渉が後退しても、尖閣諸島に於いて中国公船の領海侵犯が激増しても、実際は保守派の意に沿う対外政策をしなくとも「保守派にリップサービスをしておく」という一点のみに於いて保守派からの熱狂的な支持を得ることに最後の最後まで成功したのである。

そのような意味で安倍晋三前首相の保守派に対する「操縦術」は極めて高度のものであったが、菅政権にはそれが全くと言ってよいほど無かった。それは端的に、菅総理個人に保守派が好むイデオロギーが初手から存在していないことが要因であり、保守派に対し「たとえ空疎空論でもよいから保守的なイデオロギーをバラまいておく」という戦術的側面が欠損していたからである。そうこうするうちに菅政権は完全に保守派から見限られ、「より(保守的)国家観が明瞭」であるとする高市早苗氏に支持が集中する帰結となったのである。

菅政権1年間の失敗とは、端的に言えば「安倍路線の継承」を謳っておきながら、保守派の想定する安倍的イデオロギーを全く踏襲しなかったことに尽きる。安倍的イデオロギーを完全に首肯する人々の存在は現実社会では少数ではあるが、実際にはそれが中道、中道右派に与える「空気感」は殊更大きい。安倍政権は、極端な右のイデオロギーを盤石にすることによって、その「空気」に依存する中道の有権者の意識を、「微温的に政権支持に改造する」という雰囲気を、有権者の皮膚感覚のみならず既存大メディアの側にも作り上げることによって数多の国政選挙で勝利してきた政権である。

そのためには、まずは極端な右のイデオロギー、つまり現下の保守派の支持を盤石にしなければならないが、菅政権はそれにほぼ初手から失敗した。1年で終わるであろう菅政権の短命の理由は、極端な保守的イデオロギーを自身の賛同勢力に改宗できなかったという一点に於いて、良くも悪くも菅政権発足直後から運命づけられていたと言えよう。


※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

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プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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