コラム

加害と向き合えない小山田圭吾君へ──二度と君の音楽は聴きません。元いじめられっ子からの手紙

2021年07月20日(火)17時21分

戦後、ユダヤ人迫害の罪で法廷に立たされたナチスの幹部は口々に「当時はああいう時代だった、そういう雰囲気だった」と抗弁した。その抗弁が人道上通用しないと考えるなら、小山田の行為は時を経ても断罪されるべきである。現在でもユダヤ人や元中国人捕虜に対して「現代の感覚で当時を裁いてはならないのであり~」などと言えるものは居ないだろう。加害の立場にあっての暴力犯罪は普遍的な悪である。

小山田の加害の罪は消えない。「謝っているからよい」という人もいるが、今次問題が出るまで小山田から被害者への謝罪はひとつでもあったのか。小山田は加害者感情などなんら痛痒することなく音楽活動でのしあがってきた人間である。私は鬼畜の所業を行った小山田の音楽など二度と聞かない。周りの人間にも小山田が如何に鬼畜であるかを広める運動を展開する。


最終的に雑誌掲載へのGO出したのは小山田氏

「雑誌のインタビューにあってはそれが全部本当とは限らない」という抗弁も、雑誌というカルチャーの重さをまるで分っていない。著者や作者へのインタビューは原則、ライターがまとめて修正箇所をインタビューした本人にチェックしてもらう。そこでGOを出すのはライターではなくインタビューされた本人だ。まずよし、そこにライターや編集長の判断で誇張があったとしよう。であるならば小山田は今次の謝罪声明で「謝罪はするが、具体的にはA箇所とB箇所などは事実ではなく悪ノリで誇張したものであった」とするべきであるが、そんなものは一切出ていないではないか。

 93、94年当時の読者も誌面を額面通りに読む。インタビュー誌面が全部誇張なら、雑誌文化におけるインタビューというのは全部創作であると開き直る事も可能だ。だから私も、音楽雑誌ではないが、様々な雑誌にインタビューが載るとき、その校正には細心の注意を払う。年月日が正しいか、自分は本当にそういうことをやったのか。人間関係の認識は正しかったのか。一度発表されてしまったインタビュー誌面に「手心を加えて読め」というのはカルチャー領域側の傲慢である。最終的にGOをだしたのは小山田なのだ。

 とはいえ、それでもサービス精神でインタビュー当時に話を若干「盛って」構成したのかもしれない。たしかにインタビューで平凡なことを言っても面白くはないので、こういう作りにすることはよくある。そこで小山田の犯罪行為を50%減じるのだから良いとしよう。しかしこれも所謂「歴史修正主義者の詭弁」とまるで同じなのだ。「ナチスはユダヤ人迫害をやったが、少なくともポーランド方面で600万人は殺していない。せいぜいが200万人である」とか、「南京事件での死者数30万人は誇張しすぎ。せいぜいが3~5万人である」とかいうのが、ネット右翼を中心とする歴史修正主義者のよく使う詭弁である。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイGDP、第2四半期前年比+2.8%に鈍化 年後

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ小幅高、米利下げ観測

ワールド

インドはロシア産原油購入やめるべき、米高官がFTに

ワールド

健康懸念の香港「リンゴ日報」創業者、最終弁論に向け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story