コラム

加害と向き合えない小山田圭吾君へ──二度と君の音楽は聴きません。元いじめられっ子からの手紙

2021年07月20日(火)17時21分
いじめ(イメージ)

東京五輪の作曲陣を辞任した小和田氏を擁護する意見もあるが BeeBright-iStock.

<他人に凄惨な暴行を加え、それを武勇伝のように誇り、ときに非難されながらも「カルチャー」の隠れ蓑に隠れてきた加害者と、それを知りながら許してきた者の罪は大きい>

小山田圭吾氏が東京五輪の作曲陣から辞任を発表した。遅きに失したものの当然の進退決断である。そもそも今次問題を「小山田のいじめ告白問題」などと銘打っている場合があるが、小山田のやったことは本当にいじめなのか。全裸強制、自慰強制、食糞など、小山田のやったことは「いじめ」などではなく虐待を通り越して単なる犯罪行為である。読んでいて吐き気がした。よく家裁送りにならなかったモノだ。

小山田の告白が掲載された1994年(1月号)のロッキング・オン・ジャパン誌は、刊行年月日から類推するにおそらく1993年に収録されたものであろう。これを以て1)「当時のサブカル誌の潮流の中では当たり前の事だったから致し方ない」2)「雑誌の内容が全て事実であるとは限らない」などとして小山田を擁護する吾人が散見されるが馬鹿も休み休み言え。

小山田は1969年生まれ。告白の実行為がなされたのは中学時代というからおおよそ80年代前半くらいであろう。そしてその告白が93年になされている。1993年、私は小学校4年か5年だったが、すでに1993年に山形の中学で男子中学生の暴行による有名な「山形マット死事件」が世の中を騒がせており、到底凄惨な暴力を許容するような空気では無かった。小学校でも中学校でも身体的暴力は禁忌とされ、体育館の遊具・教材置き場に生徒が勝手に入れないように鍵をかけられたりした。学校や教員は生徒間暴力への対応に追われていた時代である。

小山田氏擁護は歴史修正主義者の詭弁と同じではないか

そんな流行に逆行する形で「サブカルのノリなら良い」という露悪的な考えでこの特集が組まれたのであるなら、また「それはあくまでサブカルの領域なんだから良い」と抗弁するのならサブカルなど消えてなくなってしまえ。そんなものはカルチャーではない。そんなものをカルチャーと認めるのなら文明は滅ぶ。

まずよし、当時の価値観に於いては当たり前だったという手垢の付いた抗弁はナチの詭弁と全く同じであり吐き気を覚える。1980年代前半には凄惨な暴力が当たり前で、90年代に於いてそれを吐露するのも当時のノリだった、と言って正当化するなら、「ヒトラー時代にナチがやったユダヤ人への迫害は時代から言ってやむを得なかった」「日中戦争時代、中国人捕虜を陵虐するのは当時の日本軍の軍紀から言って文化みたいなものであった」と擁護するのと何ら変わりない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

訂正-再送-米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story