コラム

『鎌倉殿の13人』は「法の支配」への壮大な前振り

2023年01月02日(月)07時11分


北条泰時は、長らく武家政権の模範的法令とされた御成敗式目の制定者として知られている。この法が『鎌倉時代の13人』の物語の後に制定されたと考えるのであれば、とても示唆的だ。

つまり、あらかじめ開示されていないがために、人間に知らぬまに罪を犯させてしまう運命の法則に基づく悲劇の連鎖を食い止めたのは、あらかじめ罪が何かを規定する成文法だったということなのだ。

いったん自分の持分を越えた行為をしてしまったものの運命は変えられないし、破壊できない。しかしあらかじめやってよいことと悪いことの区別を明確化した法を明示することによって、幕府と御家人は互いを拘束することができる。いかなる力を持つ者であろうと、法には従わなければならない。それは力を持つ者が理不尽な力を行使することを防ぎ、また力を持つ者が因果応報としての破滅を迎えることを防ぐ。

物語は、泰時の時代には粛清が起こらなかったことを伝えている。残念ながら泰時の時代以降の鎌倉幕府では多くの粛清劇が再び起こってしまうのだが、「法の支配」の先駆的な事例として、泰時の業績は歴史に刻まれている。

法は悪意あるものの専横を抑制するとともに、悪意なきものが知らなかったがゆえの罪を重ねてしまうことも抑制する。この法の必要性についての盛大な前振りが、『鎌倉殿の13人』のドラマだったということもできるだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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