コラム

在日コリアンに対するヘイトクライムを止めるためマジョリティが考えるべきこと

2021年12月23日(木)18時38分
岸田首相

岸田首相は国の指導者としてヘイトクライムは許さないという意思表示を Yoshikazu Tsuno/REUTERS

<在日コリアンを狙った犯罪が相次いでいる。京都府宇治市にあるウトロ地区への放火事件や大阪府東大阪市の民団支部へのハンマー投げ込み事件など悪質なものだ。岸田首相は人種差別に断固反対するメッセージを打ち出すべきだ>

今年の夏頃から、在日コリアンを狙った犯罪が相次いでいる。8月に京都府宇治市にある、在日コリアンが多く住む地域であるウトロ地区が放火された。放火犯と目される男は7月にも愛知県名古屋市の在日本大韓民国民団(民団)本部や韓国学校に放火していた。12月6日に男は逮捕されたが、直後には大阪府東大阪市にある民団の支部にハンマーが投げ込まれるという事件が起きた。関係者のショックと恐怖は計り知れない。

被疑者については奈良県在住の22歳の男というだけで、動機や背景に関しては今のところ伝わってはいない。しかし一連の犯行は、民族マイノリティを狙った憎悪犯罪(ヘイトクライム)と呼ぶことができるだろう。京都市内の複数の市民団体も、この事件をヘイトクライムの可能性があるとして真相究明や再発防止を呼びかけている。

それ以外にも、昨年1月から神奈川県の多文化交流施設「川崎市ふれあい館」に対して、在日コリアンを対象とした脅迫が断続的に行われているなどの事例もある。これ以上のヘイトクライムを止めるためには、社会が強いメッセージを打ち出すことが必要だ。しかし放火事件のニュースに関するネットのコメント欄では、「放火されたくなければ国に帰ればよい」「放火はよくないが犯人に同情する」といったヘイトスピーチが並ぶ。こうしたヘイトコメントも、当事者を傷つけている。

平和祈念館に展示予定の資料も

8月に放火されたウトロ地区は、戦争中に日本軍の飛行場建設のために雇われた朝鮮人労働者の飯場跡が元になっている。戦後の混乱の中で失職しそこに放置された彼らは、生き延びるためにそこに集落を形成し居住権を主張した。同地区に住む在日コリアンは、徴用によって連れてこられた者や、経済的理由で植民地朝鮮から渡ってきた者など、複数のルーツをもつ。

2022年4月には、こうした歴史も踏まえた「ウトロ平和祈念館」が開館する予定なのだが、火災で燃えた資料の中にはそこに納められるはずの資料もあったという。放火犯もそれを狙っていたわけではないだろうが、この許されざる犯罪行為の本質の象徴としては重要だろう。差別は歴史の破壊でもあるのだ。

日本にはヘイトクライムを罰する法がない

こうした犯罪に対処するため、アメリカやドイツ、イギリスでは、マイノリティに対する偏見や憎悪をもとに行われた犯罪について、通常よりも重い刑を科すヘイトクライム罪が刑法で定められている。たとえば今年5月には、バイデン政権はコロナ禍で拡大したアジア系住民へのヘイトクライムの取締りを強化するための反憎悪犯罪法案を成立させている。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

政策金利の現状維持、全員一致で決定=日銀

ビジネス

午前の日経平均は反発、円安や米テックの好決算受け 

ビジネス

印タタが伊トラックメーカーのイベコ買収へ 防衛部門

ビジネス

中国7月製造業PMIは49.3に低下、4カ月連続5
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story