コラム

入管法「改正」案、成立すれば日本は極右の理想郷になる?

2021年05月10日(月)06時31分

こうした人権侵害は、おそらく意図的に行われている。難民条約によって強制送還が制約されている現状で、外国人を劣悪な環境に置くことで、自ら送還を希望することを待っているのだ。

このような非人道的な扱いを行っている国はほぼないといってよい。たいていの先進国では、ホテルとまではいかないが、最低限の文化的環境を有する宿泊施設が存在し、一定の制限はあれ外出も行うことができる。

都合よく切り捨てられる「不法滞在者」

入管の収容者は難民申請者以外にも、いわゆるオーバーステイ、つまり日本に滞在する許可を有さない人々もいる。そうした外国人は、長年日本で就労し家族を形成している者も多く、生活基盤が日本にあるためもはや国に戻ることはできない。「不法滞在」だから仕方がないという意見もあるだろう。しかし日本社会は、こうした外国人を低賃金労働者として都合よく働かせ、利用してきたのだ。

子どもたちは日本の教育を受け、日本語を事実上の第一言語として育ち、地域社会に溶け込んでいる。この人たちを地域社会から切り離し、追い出して路頭に迷わすよりも、特別在留許可を出すことによって、そうした人々を包摂したほうが人道的にも、また社会的にもメリットは大きいはずだ。

ところが、今回の「改正」案では、その特別在留許可にも制限がつくといわれている。きわめて不十分ながら、一定の人道的な措置を行使してきた特別在留許可制度も、これで後退するとなれば、ますます外国人の人権は保障されなくなる。

元総理経験者が「日本は単一民族国家である」という失言をしたのはもう30年以上前のことであるが、2021年の今なお、「単一民族国家」意識にとらわれている人々は多い。外国出身者はどんなに地域社会に溶け込んでいても「お客さん」であり、「許可」がない場合は追い出されるのが当然と考えられている。

政府の政策も、人々のそのような視線の反映なのだ。だが、私たちはそのような偏見を乗り越えて、本当に国外出身者、私たちと同じ生活者である人々のためになることを行わなければならない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story