コラム

なぜ今、トヨタが「街」を創るのか、あらためて考える

2021年03月26日(金)20時30分

MaaSサービスで変わる街

さらに街の移動に関する大きな流れがMaaS(Mobility as a Service)だ。MaaSは、スマホアプリなどで個人の移動ニーズと街の交通状況を最適化し統合する考えだ。自分が目的地に移動するために、鉄道やバスなど公共交通機関やレンタルサイクルなどの移動サービスも含めて、最適な組み合わせをサービスとして提供する概念だ。

先駆けて実用化されているヘルシンキでは、公共交通サービスに加えて2km以内のタクシー移動も含めた定額サービスも投入されている。生活者にとっては、「移動コストが定額になる」劇的な価値変化を実現することができた。その結果、MaaSサービス利用者の自家用車の利用は減ったという。

MaaSは個人の移動ニーズと街全体の移動リソースの最適化を実現することになるが、その考えの中では、自家用車は大きな面積をとる割に非効率的な乗り物になる。

もし街中を自動運転車が走る時代になれば、走行レーンは一本でも大丈夫になる可能性が高い。また自家用車は、走行スペースだけでなく待機するための駐車場という非効率なスペースを必要とする。主要都市の1/3が駐車場スペースで占められているという調査データもある。つまり、もし自家用車が街から消えれば、このスペースが必要なくなり、1/3の膨大な面積が別の用途に使えるようになるのだ。

MaaSを駆使し、公共交通機関やパーソナルモビリティ中心にし、やがて自動運転車を組み込んでいけば街の様相は変わる。自家用車は街から必要なくなり、道路が広場やコミュニティスペースになり、カフェや店舗も自由に移動して営業する移動店舗になる。歩行者中心に設計されたフレキシビリティ溢れる街になる可能性があるのだ。

自らが実践するトヨタの破壊的イノベーション

トヨタの考える新しい街も、当然こうした考えを踏襲した実験計画が予定されている。「Woven City(ウーブン・シティ)」では、以下の4つのタイプの道路を作ることになっているようだ。まさに未来を実際に実装して試すことになる。
1、自動車専用道
2、低速で走行するパーソナルモビリティと歩行者が混在する道
3、歩行者専用の道
4、地下に物流用自動運転走行道

T型フォードの発売からわずか4年後に、ニューヨークの交通量調査で自動車が馬車を上回ったと言われている。馬車から自動車への変化はそれくらい劇的だったということだ。それに匹敵する破壊的イノベーションに向けて、トヨタが自動車会社として都市における移動でどのような価値を提供できるのか。自らが実践し、市場を切り開くための壮大な超長期戦略と言えるのだろう。

プロフィール

藤元健太郎

野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略,未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。J-Startupに選ばれたPLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJでコラム「奔流eビジネス」を連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経BP)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハセット氏のFRB議長候補指名、トランプ氏周辺から

ビジネス

FRBミラン理事「物価は再び安定」、現行インフレは

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 9
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story