コラム

ソマリア海賊を封じる「切り札」

2009年12月04日(金)16時13分


ビジネス集団 一見すると秩序などないように見えるソマリア海賊だが、
実は高い組織力を誇っている(09年6月)  Reuters

 ソマリア海賊に詳しい人なら、船を乗っ取って海の平和を脅かす彼らが見かけよりはるかに組織化された集団だと知っていたはずだ。一見すると帆船で航海する少年たちのような彼らだが、実に真剣に海賊という「ビジネス」に取り組んでいる。

 より正確に言うと、彼らが行っているのは株式会社スタイルのビジネスである。ロイターによれば、海賊はソマリア国内にある彼らの拠点港ハラディエールに「取引所」を設立したという。

 ここでは72もの海賊組織が「株」を取引する。ここで得た利益は、無数のSUV(スポーツユーティリティー車)や贅沢な食事、さらには地元自治体の歳入の一部に姿を変えてきた。ロイターの取材に海賊は次のように答えている。


「海に出てもいいし、陸上で現金や武器、使える物資を提供してもいい。誰もが(ビジネスに)参加できる。分け前はみんなにいきわたる。今や海賊行為は地域の社会活動になっている」


 海賊行為がなくならないのは当然かもしれない。貧困にあえいだり、兵士や泥棒になるより海賊のほうがずっとましだ。それに地元民という「株主」の期待を裏切るわけにもいかない。

 私は今年4月、海賊が麻薬密輸に近いものになってきたとする記事を書いた。本当に必要なのは海賊を追い回すことではなく、彼らの資金源を取り締まることだ。

 そうした意味で言うと、「株式市場」が誕生したというのはいいニュースかもしれない。海賊のカネはどこかで資金洗浄される必要がある。ということは、金融制裁によって彼らの急所を突くこともできる。海賊のアキレス腱はその財布にあり、ということだ。

──エリザベス・ディッキンソン
〔米国東部時間2009年12月2日(水)12時51分〕


Reprinted with permission from FP Passport, 4/12/2009. ©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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