コラム

天皇へのお辞儀にいきり立つ爬虫類脳

2009年11月18日(水)15時26分

 人間の脳には、生理的欲求や動物的本能をつかさどる「爬虫類脳」と呼ばれる部位があるという学説がある。人類は何百万年にもわたる進化の過程で理性や恥の意識、言葉でのコミュニケーション能力を発達させてきた。だが爬虫類脳には、争うか逃げるかを直感的に判断する「闘争・逃走本能」が今も残っている。

 アメリカの大統領が外国の要人にお辞儀をするたびに大騒ぎする人々がいるのも、この爬虫類脳が原因ではないか。彼らの頭の中では即座に「従属vs支配」という対立の引き金が引かれ、お辞儀をした大統領を敵に腹を見せて降参する犬のように感じる。

 この手の怒りの波は、およそ半年に一度押し寄せる。バラク・オバマ大統領がサウジアラビアのアブドラ国王にお辞儀をして批判されたのは今年4月。そして今度は11月14日、オバマが日本の天皇にお辞儀をしたことがネット上で騒ぎになっている。ジョージ・W・ブッシュ前大統領がサウジの王族とキスしそうになったときも、訪中したリチャード・ニクソンが毛沢東の詩を引用しながら毛と乾杯したときも、同じような非難が巻き起こった。

 政治ブログの「シンク・プログレス」は類似の例を挙げ、誰にでもお辞儀をするドワイト・アイゼンハワーの写真にリンクを張っている。だからといって、アイゼンハワーが従順な指導者だったという声はないだろう。

 挨拶をする際に頬にキスをする文化もあれば、握手をする文化もある。そして、お辞儀をする文化もある。それぞれに複雑な文化人類学的背景があるが、ここでは立ち入らない。

 重要なのは、「郷に入っては郷に従え」という教訓を理解しているのは、指導者の弱さの表れではないということ。ただしオバマが次に日本を訪れる際には、(両腕を身体の脇に沿わせる)正しいお辞儀の仕方を学んでほしいものだ。


──ボビー・ピアス
[米国東部時間2009年11月16日(月)13時19分更新]

Reprinted with permission from FP Passport", 11/18/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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