コラム

微博が埋めてくれた21年間の空白

2012年07月02日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔6月27日号掲載〕

 今から21年前の91年4月、日本はまだバブルで大忙しだった。留学4年目の私も、何かとトラブルに巻き込まれる歌舞伎町案内人の仕事でヤクザと「お友達」になったり、デザイン学校のハードな授業に出たりと大忙しな毎日を送っていた。

 2番目の妻愛梅(アイメイ)との子供であるわが長男俊俊(チュンチュン)が生まれたのは、そんなときだ。「俊」の漢字を使ったのは、今となっては想像もつかないだろうが、当時は国民的人気だった海部俊樹元首相にちなんで。ただ、親子3人の幸せな暮らしは長く続かない。「お見合いパブ」でアルバイトをしていた愛梅と私の仲は互いの浮気もあって最悪になり、翌年離婚。俊俊は中国で育てられることになり、その後は一度も会っていない。

 音信不通だった長男の消息が先月末ようやく分かったのは、マイクロブログの新浪微博(シンランウェイボー)がきっかけだった。以前、私が撮影に協力したジャッキー・チェンの映画『新宿インシデント』を見ていた俊俊のいとこが、エンドロールに私の名前が出ているのに気付き、微博で元妻と俊俊の近況を知らせてくれたのだ。

 聞けば、深圳に戻った元妻は別の中国人男性と結婚し、俊俊も新しい父親と暮らしていた。だがその後、2人は離婚。俊俊はコンピューターの専門学校に行き、今は深圳にある中国でも最大手のIT企業で働いているのだという。

「早く彼の携帯番号を教えてくれ!」。私は思わずいとこにメッセージを送った。いとこが教えてくれた番号に慌ててかけるが、なぜかつながらない。「なんでつながらないんだよ!」。いとこに微博で八つ当たりする私の目からは、涙がボロボロとこぼれていた。

 私には3番目の日本人妻との間にコーちゃん、さらに4番目と5番目と6番目の今の中国人妻(彼女とは3度結婚して2度離婚した)の間には一龍(イーロン)という息子がいる。日本にいるこの2人の息子には愛情もお金も惜しみなく注いでいるが、消息の分からない俊俊には何の助けもしてやれなかった。そのことをずっと悔やんできた。

■李小牧一族で「家族写真」を

 この21年間、私は案内人からスタートして中国ファッション誌の特派員、中国人向け新聞の発行、作家そしてレストラン経営と、ありとあらゆることに挑戦し変わり続けてきた。バブルが崩壊し、盤石に見えた自民党政権が終わった日本にとっても、この21年間は大きな変化の時代だった。李小牧も日本も、別の人間や別の国になったと言っていいくらいだ。

 ただ私の中では、俊俊の存在だけがずっと変わらない「空白」のまま残されていた。その空白を突然、微博というテクノロジーが埋めてくれたのだ。

 やっとつながった電話で俊俊が話してくれたのは、2番目の夫とも離婚した母親が株の失敗で財産をほとんど失ったこと、日本のアニメやコスプレに興味はあるが、友達がたくさんいるので今は日本に行くのは考えられないこと、長身の私に似て身長が183㌢もあること......。彼が自分の部屋で撮った写真を見て、それほど悪くない暮らしをしていることに心底ほっとした。

 実はこのコラムが載った本誌が発売される頃、私は深圳に行って俊俊と会っている。SNSがきっかけで実現した再会に興味を持った複数の中国メディアから、取材や執筆の依頼も来ている。

 もちろん、21年間の空白を簡単に埋められるとは思っていない。ただ彼にはできるだけのことはしてあげたいし、私を理解して支えてくれる現在の妻や、3番目の日本人妻の承諾が得られるなら、いつの日か全員が一堂に会して、「全家福(チュアンチアフー、家族全員が集まった写真)」を撮りたいと思っている。

 新たに微博で見つかった4人目の子供が全家福に加わる......ことだけはないと、この場で誓っておこう(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

MAGAZINE

特集:間違いだらけのAI論

2018-12・18号(12/11発売)

AI信奉者が陥る「ソロー・パラドックスの罠」── 過大評価と盲信で見失う人工知能の未来とチャンス

人気ランキング

  • 1

    「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営者が語る

  • 2

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 3

    中国当局がひた隠すスラム街の存在

  • 4

    日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由

  • 5

    自動運転車は「どの命を救うべきか」世界規模の思考…

  • 6

    ソーセージで武装した極右がベジタリアンカフェを襲撃

  • 7

    ミャンマー若者世代、堕ちた偶像スー・チーに反旗

  • 8

    日本の次世代ロケット「H3」の打ち上げを支える新型…

  • 9

    生きるために自分の足を噛みちぎった犬ルークの強さ

  • 10

    【血みどろの王家】サウジ皇太子側近は、女性活動家…

  • 1

    生きるために自分の足を噛みちぎった犬ルークの強さ

  • 2

    世界最小チワワ、韓国で49回クローンされ、世界で最も複製された犬に

  • 3

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 4

    エイリアンはもう地球に来ているかもしれない──NASA…

  • 5

    フランス人の自信の秘密は「性教育」にあった!? 実…

  • 6

    韓国で隣家のコーギー犬を飼い主に食べさせようとし…

  • 7

    忍び寄る「大学倒産」危機 2000年以降すでに14校が…

  • 8

    自我のあるラブドールは作れる、だが人間は創造主に…

  • 9

    日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由

  • 10

    8メートルの巨大ニシキヘビ、漁師を締め上げ インド…

  • 1

    生きるために自分の足を噛みちぎった犬ルークの強さ

  • 2

    「人肉を食べ飽きた」呪術師らの公判で明らかになったおぞましい新事実

  • 3

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......

  • 4

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 5

    恋人を殺して食べたロシア人の男、詩で無罪を訴え

  • 6

    カルロス・ゴーン逮捕、アメリカでどう報じられたか

  • 7

    日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由

  • 8

    フランス人の自信の秘密は「性教育」にあった!? 実…

  • 9

    世界最小チワワ、韓国で49回クローンされ、世界で最…

  • 10

    「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営…

資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
「ニューズウィーク日本版」編集記者を募集
デジタル/プリントメディア広告営業部員を募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版

ニューズウィーク日本版特別編集 レゴのすべて

絶賛発売中!