コラム

東京のひそかな「韓流」教育ブーム

2011年11月22日(火)18時22分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

〔11月16日号掲載〕

 東京新宿区の一角に一般の日本人には知られていない、地図によってはその名も載っていない学校がある。僕の母校であり、息子も通っている東京韓国学校だ。公立小学校よりも小さな敷地に小中高が一緒になっているが、体育館を含めて必要なものは大体そろっている。

 この学校の生徒たちの表情はとても明るく、堂々としている。驚くのはテコンドーの道着姿で子供たちが街を闊歩していることだ。もはや彼らにとって日本は、自らの出自を隠すべき社会ではない。

 僕が通っていた80年代、この学校の生徒はチマチョゴリを着る朝鮮総連系の「民族学校」とは対照的に、日本の学生と同じ学生服とセーラー服を着用していた。目立たないように自ら進んで「同化政策」を推進していたわけだ。一方で映画『パッチギ!』のように、ヤンチャな生徒たちは頻繁に周辺のヤンキーたちとけんかしていた。

 今ではこの学校、人気が高くて入るのがなかなか難しい。僕の小学生の息子が転入できたのも、震災により帰国した生徒がいて欠員が出たからだ。この学校の最大のメリットは韓国語、英語、日本語の3カ国語を学べること。その核となるのが韓国語と英語で授業を並行して行うイマージョン(集中訓練)教育と呼ばれる方式。韓国の有名私立校が採用している教育方式を導入したものだ。

 各クラスには韓国人と英語ネイティブの2人の担任がいる。外国人教師も専任なので責任感を持っており、英会話学校の講師のように震災があったからと帰国したりはしない。クラスは2組に分かれ、各科目を韓国語と英語で交互に学ぶ。

■学費は日本の私立の半分以下

 英語で行われる授業の参観に行ってみたが、20人ぐらいの生徒が写真を見ながら僕も知らない単語を英語で楽しそうに答えていた。われ先に答えようとする子供たちの積極性も目を見張るものがある。

 授業は優秀な生徒のレベルに合わせているようで、できない人は自分で復習してこい、という感じだ。それでも保護者はその方針をおおむね歓迎している。そうでないと韓国に戻った際に競争に付いていけなくなるからだ。転入生の息子も塾三昧で必死に付いていっている。

 もちろん、日本語がないがしろにされているわけではない。日本語の授業では日本の普通の教科書を使い、漢字の宿題も山ほどある。遊ぶときや携帯メールなど、子供たちの公用語は日本語だ。

 このような充実した教育内容を、日本の私立学校の半分以下の学費で学べることも人気の理由だ。在日コリアンはもちろん、国際結婚により日本国籍を有し日本名を持つ子供までもが通っている。「日本人」が日本で韓国学校に通うなど、以前ならば想像もできなかったことだ。今後は「韓流マダム」の子供たちの「国内留学」もあるかもしれない。

 生まれた直後から日本に住む僕の息子にとって、韓国人としてのアイデンティティーも持て、似た境遇の友達を知ったことの意味は大きい。「日本と韓国が一緒になった国があったらいいな」「東京からソウルまで電車で1時間ぐらいで行けるといいな」と話す息子を見て、僕は自分の判断が間違っていなかったと思う。

 中国にある韓国学校の教育水準も極めて高いという。そこでは韓英中3カ国語を操る生徒が育っている。また、日本にある中華系やインド系の学校の教育内容も充実しているという。このようなトランスナショナルな学校から「東アジア時代」を担う人材が育つ可能性は十分ある。

 環太平洋経済連携協定(TPP)、年金問題、円高など目先のことも重要だが、それだけに目を奪われるのではなく、日本は教育の分野でもっと抜本的な改革と大胆な投資をする必要があるのではないか。まずは、東京でひそかに人気を集めている「韓流」教育に目を向けてみてはどうだろう。

プロフィール

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・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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