コラム

日本の男を捨て中国に飛び出す女たち

2011年03月14日(月)07時00分

今週のコラムニスト:李小牧

※今回の東日本大震災で被災された方に心からお見舞いを申し上げます。

 先日の雪の朝。歌舞伎町から家に帰るため乗ったタクシーのカーラジオから、エジプト騒乱のニュースが流れてきた。男性運転手が私のことを日本人だと思っている様子だったので、試しに「中国もエジプトみたいになったらいいのにね」と話を振ると、意外な答えが返ってきた。「共産党が倒れたら困るよ」

 何で? 「中国が民主主義になったら、いずれアメリカを抜いて世界一の国になっちゃう。そうなったら日本が困る。まだ独裁国家でいてくれたほうがいい」

 中国人にとってはあまりよくないが(笑)、事実中国は「世界一」へ向けて日々前進している。最近、昨年のGDPが日本を抜いて世界第2位になったというニュースが流れたが、いずれアメリカを超えて世界一の経済大国になる日も来るだろう。タクシー運転手の言葉は、「隣人」である日本人が抱く中国コンプレックスをよく表している。

 やたら元気な中国人に比べ、年を取って昔の元気がなくなり、貯金も減ってきた日本人──そんな日本人、特に男たちに見切りをつけ始めた人々がいる。日本人女性だ。

 歌舞伎町案内人という仕事柄、私はこの街で働く日本人風俗嬢に知り合いが多いが、彼女たちがここ数年驚くような行動を取り始めている。個人、時にグループで中国に「営業」に向かうのだ。

「顧客」はもちろん中国人の超富裕層。中国では蒼井そらなど日本のAV女優が大人気で、日本のセックス産業にはかなりのブランド力がある。その「性進国」日本の女性は、金持ちの中国人にとってはたまらなく魅力的らしい。

■世界に誇る日本の「サービス」
 
 もちろん風俗嬢たちは中国語がほとんどできないし、中国人の金持ちも日本語はできない。それでもなぜか「没問題(問題なし)」なのはサービスの性質だけが理由ではない。

「出張」期間中は5つ星ホテルに泊まり、基本的にお相手するのは1人だけ。飛行機代も食事代ももちろん中国人側の負担で、時間が空けば観光も楽しめる。ギャラだって日本よりむしろいい......となれば、彼女たちが日本を飛び出すのは極めて当然だ。

 風俗嬢だけではない。北京や上海にある「日本風クラブ」で働くのは、昔ならちょっと日本語ができる中国人と決まっていた。ところが最近では本物の日本人女性がいる店も多く、中には中国の名門大学で学ぶ日本人留学生がアルバイトで働くケースもある。

 実は上海万博の前頃から、日本の風俗産業に精通した私の元に中国側から「女の子を紹介してほしい」「いくらでも出すから」という申し出が殺到している。一応文化人だし(笑)、もめ事や犯罪に巻き込まれるのが嫌なので一切断っているのだが、もし私がこの「事業」に乗り出したら、バックチャージは大変な額になるだろう。ちなみに、今や歌舞伎町の風俗店でも中国人観光客は大歓迎だ。「中国人入店不可」という貼り紙がしてあった頃がかえって懐かしい。

 それにしても、日本女性の元気と大胆さには恐れ入る。冒頭のタクシー運転手のように、理由もなく中国を怖がってばかりの日本の男性とは大違いだ。

 私は日本女性の「サービス」が、高度経済成長期の日本のお父さんたちを支えたと思っている。日本人はあまり気付いていないが、日本のサービスは自動車や電気製品と並ぶ世界に誇れる「輸出品」だ。いくら世界第2位の経済大国になったといっても、中国で日本レベルのサービスを提供できる場所はまだ少ない。

 だが日本の男たちがしょぼくれたままでは、風俗嬢だけでなく日本女性そのものがいずれふがいない彼らを見捨てて、どんどん中国に流出してしまうだろう。

 もしそうなったとしても、李小牧は「『性進国』案内人」として生き残っていけるが。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
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