コラム

東京の無駄な空間に自然を

2010年06月14日(月)17時34分

今週のコラムニスト:ジャレド・ブレイタマン

「東京が緑の都市だと本当に思ってる?」「なぜ東京のいい面だけを取り上げるの?」――東京に住む日本人からも外国人からも、よくこんな質問を受ける。

 私は、東京という雑然とした大都会の住民が緑を愛し、ほんの小さなスペースにも緑を植えていることに注目し、「Tokyo Green Space: 東京の小さな緑」と名付けて研究を行っている。最近では、都市の公共スペースをうまく活用することが人にとっても自然にとっても有益であるという認識が高まっている。それでも上記のような質問を受けるということは、理想と現実にはまだ差があるということだ。

 東京が素晴らしいのは、一般の人たちが工夫を凝らして街に緑をもたらしていることだ。

jared_100614a.jpg

 だが一方で、公的機関や大手不動産会社、一般の土地所有者が土地を有効利用せず、デッドスペースを生んでいることも無視できない。なぜこうした無駄な空間を作るのだろう。緑化を望む世論とは裏腹に、道は舗装され、川は埋め立てられ、私たちの暮らしは自然界と切り離されていく一方だ。デッドスペースを人々の、自然の手に取り戻すにはどうすればいいのだろう。

 東京を歩いていると、いたるところにデッドスペースを発見する。いくつか例をあげてみよう。

jared_100614b.jpg

・地下鉄の駅に降りるためのエレベーター周辺。ガラス張りのスタイリッシュな外観だが、隣接する三角形の土地には駐輪防止らしきフェンスが立てられていて無駄な空間に。(写真上段の左)

・路地と歩道が接する空間。車の通り抜けを防ぐ黄色の柵が置かれ、さらに三角の土地を茶色のフェンスが囲んでいる。この狭い空間を3つの仕切りで分けるなんて!(写真上段の真ん中)

・江戸時代には運河や河川が物資輸送に使われた。今や大半の河川が地中に埋められ、洪水を防ぐため地上より4〜5メートル下のコンクリートで覆われた水路を流れている。(写真下段の真ん中)

■デッドスペースには罰則をもうければいい

 都市化や開発が急速に進んだ20世紀にはコンクリートは近代化のシンボルだった。開発は利益をもたらし、時には汚職の原因にもなった。自動車の増加も発展の証しとみなされ、ガソリンを撒き散らす車の所有に異論を唱える者はいなかった。

 デッドスペースを増やすような開発にカネが投じられてきたのは、役所の怠慢と人々の無関心のせいだ。この流れを逆行させるには、環境や経済、教育に関する議論をもっと活発にすることだ。そうすれば、東京に新しい生命を吹き込めるかもしれない。

 世界の都市化は加速しており、今後途上国の何十億もの人々が都市住民の仲間入りをする。気候変動を緩和するには夏の気温を下げ、大気をきれいにする都市の緑化が欠かせない。限りある資源を有効に使って多くの人が快適な生活を送るには、効率のいい輸送システムの開発を促し、都市に農業を広める必要がある。

 コンクリートやアスファルトで街を覆うのが安上がりに思えるのは、環境や社会が負担するコストが含まれていないからだ。地方自治体や政府が土地の緑化にさらなる優遇措置を与えれば、コンクリートをはがし、緑を植え、みんなが利用できるスペースに変えるだろう。反対にデッドスペースには罰金を定めれいい。そうすれば、ブロック塀やフェンスが減り、人間や自然を締め出す空間は生まれにくくなる。

■東京でミツバチを育てている人も

 都市における最大のオープンスペースは道路だ。いくつかの都市では道路を自動車のためのものではなく、住民のためのものにしようと試みている。オレゴン州ポートランドは、排水溝設置のコストを削減するために道路の一部を緑にする実験を行っている。

 土がむき出しになると植物や生物が飛躍的に増え、自然を楽しむスペースが生まれる。「緑の回廊」や「ミニ公園」は多くの人を引きつけるだろう。

 結局のところ、都市生活を変えるカギとなるのは教育、いや想像力だと思う。教育というのは、正しいことを上から命令してやらせることでもあるが、想像力は、人々が自ら日常生活や環境を改善したいと願う気持ちを培う原動力になる。

「トトロの森」を守るため、アニメーション作家の宮崎駿ら世界の一流アーティストがイラストレーションを描いたことはよく知られている。人々に変化をもたらすことができる芸術の役割を軽視してはいけない。政府や民間が協力すれば、緑化の画期的アイデアのコンテストを開催することもできるし、実証プロジェクトをとおして活用されていない道路や塀や河川を再利用できることを示せるかもしれない。

 新しいアイデアを試すだけでなく、自宅の周りなどで「小さな緑」を実践している人たちをもっと認めるべきだ。東京という大都市で緑を育て、ミツバチを育て、バードウオッチングをし、環境保護のボランティアをしている人たちは、都会の暮らしをより良くするための知恵と情熱を持っている。

 活用されていないスペースを有効利用するのは、そう難しいことではない。東京に自然を蘇らせるために、私たちはもっと高いハードルを指導者に付き付けたほうがいい。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する

ビジネス

米ヘッジファンド、7─9月期にマグニフィセント7へ

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story