コラム

メディアサイトのアフィリエート収入は必要悪

2013年02月23日(土)19時56分

 ブログ執筆で生計を立てるのは大変だが、それをやってのけているのがマリア・ポヴォーヴァだ。彼女のブログは「ブレイン・ピッキングズ(お知恵拝借)」という名前で、文学、アート、デザインなどを扱い、彼女特有の美的センスとオタクっぽい博識ぶりで人気を呼んでいる。このサイトを訪れる人々は毎月50万人にもおよび、その中には著名な作家やテクノロジー企業のトップ、政府高官、大学教授なども含まれている。最近よく情報のキュレーション(情報を収集・加工して価値を持たせること)が求められていると言われるが、彼女の場合はそれを超えて、知識のキュレーションをしている感がある。これだけの人気を集めるだけあって、並外れた情報収集力と情報選択力を生かしたユニークなサイトなのである。

 さて、このブレイン・ピッキングズをめぐって最近ちょっとした騒ぎがあった。それは、ボヴォーヴァが実はアマゾン・ドットコムからのアフィリエート収入によって相当な金儲けをしているらしいという情報に端を発したものだった。しかも、そのアフィリエート収入について、当初情報開示をしていなかったという点が特に問題視されたのである。

 ポヴォーヴァは、実際には非常に限られた場所やメディアにしか登場せず、自身の信条についてはサイト上で説明をしている。それによると、彼女は広告に対する不信感が強く、ここも広告のないサイトにしたいと言う。広告とジャーナリズムとのなれ合いの問題についてもしばしば指摘し、あるところではこんな風にも語っている。

「いったん広告を受け入れて、その見返りに読者の情報を差し出すようなことをすれば、彼らが知的な地平線を拡大したり、人生を良き方向へ向けたりすることのために書くことができなくなる。だから、読者を売り物のように扱って、広告主の顔色だけを伺ってサイトを運営するようなことはしたくない」

 そんな立派な立場を表明するポヴォーヴァに感銘を受けて、ブレイン・ピッキングズに多くの人々が寄付金を送った。「私と同じように、あなたも広告に侵されないことが大切だと考えるならば、このサイトに寄付をしてほしい。ここはあなたのような読者のサポートによって成り立っているのです」とサイトに書かれているからだ。

 ところが、あるネット上の書き込みによって、ポヴォーヴァはアマゾンを中心とするアフィリエート収入によって数10万ドル、日本円にすると数1000万円の年収を上げているらしいことが明らかになった。アフィリエート収入とは、あるサイトに貼られたリンクを通じて他のサイトに利用者が飛び、そのことによって最初のサイトに次のサイトから仲介料が支払われるしくみだ。次のサイトで利用者が商品を購入したりすると、仲介料はもっと増える。ポヴォーヴァの場合は、彼女が取り上げる書籍にアマゾンへのリンクが貼られており、そこへ飛んだ人、本を買った人がそれだけ多かったというわけだ。

「読者のサポートによって成り立っているようなふりをして、実際にはアマゾンからアフィリエート収入を上げていることを明らかにしていないとはけしからん」、「広告のことを懸命にけなしているけれども、アフィリエートだって同じじゃないか」という批判が噴出した。

 その後、ポヴォーヴァはアマゾンのアフィリエート収入を得ていることをサイト上で細かく明記するようになった。これで、情報開示という問題が処理されたのだが、メディアのあり方についてここから出てきた疑問は他にもある。それは、アフィリエートは広告と同じか、そしてアフィリエートはメディアにとって果たして悪なのかという点だ。これはブレイン・ピッキングズだけの問題ではない。

 現在、アメリカには正統なメディアのようであって、実はアフィリエート収入によって成立しているサイトがかなりたくさんある。テクノロジー業界のニュースサイトやお勧め製品のサイトなどである。こうしたサイトは広告も受け入れているが、それだけでは運営を続けていくのに十分でなく、アフィリエート収入も主要な収入源に位置づけているのだ。しかも、重要なポイントは、これらサイトがメディアの質として決して劣っているわけではないということである。よくアフィリエート収入だけで稼ぎまくろうとするような偽メディアサイトや過剰な製品紹介サイトがあるが、それとは一線を画しているのである。もちろん、アフィリエート収入に関する情報開示も行っている。

 そうなると、実はアフィリエートに対するわれわれの負の認識をこそ改める必要があるのではないかという気がしてくる。ことに、われわれネットユーザーは情報に金を払うことを拒み続けている。優れた伝統的な新聞社のサイトでさえ存続が危ぶまれている中にありながら、購読料を払ったり、運営のための寄付をしようとしたりする読者がどれだけいるだろう。そんな読者はごく少数派に留まっているのが実態だ。

 だから、これまで購読料と広告で成り立っていたメディアが、ブレイン・ピッキングのようにアフィリエート収入と寄付で、あるいは上述したような他サイトのようにアフィリエートと広告収入でやっていこうとしているのは、かろうじて与えられた選択肢を選びながらどうにか生き残っていこうとしているということ。情報は欲しいが金は払いたくないというわれわれが、そんなメディアを批判するのも無責任というものだろう。

 ブレイン・ピッキングズのポヴォーヴァ自身は、広告を悪のように捉えているけれども、アフィリエートは別物だという。そして、こう断言する。「ブレイン・ピッキングズは自分の世界を反映するサイトで、ここで取り上げるものがアフィリエート収入の有無に影響されることは決してない」。不思議なことに、彼女への批判は、情報開示とこのひとことであっという間に収まった。それは、ファンの彼女に対する信頼感の強さがあってのことだろう。

 メディアを支えていく次のビジネスモデルが見えるまで、アフィリエート収入は正統なメディアサイトにとっても無視できないものとなるはずだ。だが、広告は明らかに広告として表示されているけれども、アフィリエートははっきりとそうわからない。だから、明らかな情報開示が必須になる。

 日本のサイトでも、製品や書籍紹介にまるで読者の便宜を図っているかのように「買う」ボタンがついていたりするが、これも明快な情報開示をしなければメディアとしては不十分だろう。ちなみにアメリカのFTC(連邦取引委員会)は、ブログサイトにも既存メディアと同じく、取材の名目で企業から無料で製品やサービスの提供を受けた場合には情報開示することを求めている。

 そして、もっと重要になるのはサイトの信頼性だ。情報自体としての信頼性を獲得するには、仲介料を稼ごうとするためのニュースや製品情報になびかず、必要悪とうまく付き合いつつ矜持を守り通すような強い姿勢が求められるからだ。よくメディアとマーケティングの一体化といった話があるが、ことはもっと真剣に捉えられるべきだと思う。

 さらに言えば、読者も楽ではなくなる。そのメディアサイトの信頼性を、情報開示や情報の質などを刻々とモニターしながら確認しなければならないからだ。「別にどうでもいいじゃないか」となびいてしまうのならば、それまで。だが、見分けようとする力を保っていけば、より高い質の情報を手にすることができるのだ。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

MAGAZINE

特集:ファクトチェック文在寅

2019-7・30号(7/23発売)

歴史や貿易問題で日本との真向対決をいとわないリベラル派大統領の知られざる経歴と思考回路

人気ランキング

  • 1

    子宮内共食いなど「サメの共食い」恐怖の実態

  • 2

    巨大なホホジロザメが一匹残らず逃げる相手は

  • 3

    シャチがホホジロザメを餌にし始めた

  • 4

    家畜のブタが人食いブタに豹変──ロシア

  • 5

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 6

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 7

    中国にいたパンダに石を投げる愚か者(再生1億回)

  • 8

    苦境・韓国の中国離れはトランプに大朗報

  • 9

    韓国・文在寅大統領「対北朝鮮制裁違反という日本の…

  • 10

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 1

    水深450メートル、メカジキに群がるサメ、そのサメを食べる大魚

  • 2

    巨大なホホジロザメが一匹残らず逃げる相手は

  • 3

    子宮内共食いなど「サメの共食い」恐怖の実態

  • 4

    シャチがホホジロザメを餌にし始めた

  • 5

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 6

    山本太郎現象とこぼれ落ちた人々

  • 7

    アダルトサイトを見ているあなたの性的嗜好は丸裸 …

  • 8

    家畜のブタが人食いブタに豹変──ロシア

  • 9

    4万年前の線虫も......氷河や永久凍土に埋もれてい…

  • 10

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 1

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 2

    世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

  • 3

    ムール貝、異常な熱波で自然調理されてしまう

  • 4

    アダルトサイトを見ているあなたの性的嗜好は丸裸 …

  • 5

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 6

    犬を飼うかどうかは遺伝子が影響を与えている

  • 7

    フランス人の自信の秘密は「性教育」にあった!? 実…

  • 8

    異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲ま…

  • 9

    女性、独身、子なしを責められた台湾総統、FBで反撃

  • 10

    「何か来るにゃ...」 大阪地震の瞬間の猫動画に海外…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版編集部員ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!