コラム

帰ってきたバーチャル・リアリティーの新境地

2015年03月12日(木)17時39分

 最近、バーチャル・リアリティー(VR)の技術が再び注目を集めている。VRとは、コンピュータの中で展開される空間のこと。バーチャルな城を舞台に闘うコンピュータ・ゲームとか、バーチャルな教室で行われるセミナー(ウェビナー)などのVRを体験された方もいるかと思う。要は、本物のように精巧に作られたコンピュータ・グラフィックス空間で、臨場感のある体験をしたり用を済ませられるようにしたものだ。

 それが改めて注目されるようになったのは、VRを体験するための特製の機器が開発されたため。たとえば、フェイスブックに買収されたオキュラス・リフトという会社の機器は、見たところゴーグルのようなかたちをしている。これをかけて両目をすっぽり覆うと、前方のふたつの画面が脳の中で合成され、風景などがひとつの立体空間として表示されるようになる。

 驚くべきは、そのイマーシブな(没入感のある)体験だ。これまでにVRをコンピュータ・スクリーンで見たことがあっても、ゴーグルをかけて見える空間のこの生々しさはそれとは比べものにならない。本当にそこに居るかのように感じられるのだ。

 イマーシブさをさらに強めるのは、自分の首を動かす時。横を向いたり上を向いたりすると、画面も連動する。バーチャルに作られた画像だというのに、まるで自分がその同じ空間にいて、いろいろ視点を変えているように体験できる。

 それでは、このVRは一般のわれわれにどんな風に役立ってくれるのだろうか。VR用のゴーグルはオキュラス・リフトだけでなく、サムソンやソニーも開発している。グーグルも簡易型のものを開発して、ウェブ上で型紙をダウンロードできるようにしている。VR用のゴーグルをかけている様は、他人から見ると少々ギーク(=オタク)っぽいのは確か。だが、その奇妙さを超えて、これからVRが広まるだろうという予感がする。

 まずは、ゲーム。すでにコンピュータ・ゲームの中には空間が三次元に見えるものがあるのだが、これがVRになると迫力が違う。平らなコンピュータ・スクリーンではなく、目をすっぽり覆われてその中に居る感じがぐっと高まり、城の風景も野原の木々も本当にリアルなものとして感じられるだろう。

 エンターテインメントでは、すでにVRを用いた映画製作が進んでいるようだ。こちらも遠くの平らなスクリーンを観るのではなく、主人公に触れそうなくらい近いところから、まるで参加するように映画作品が味わえるようになる。

 ソーシャル・ネットワークでの利用も予想できる。そもそもフェイスブックがここに乗り出したのも、それが理由だろう。フェイスブックでつながっている人々が、バーチャル空間に集って交流する。タイムラインでやりとりしている以上の直接的な雰囲気が感じられるだろう。

 ビジネスでは、不動産が面白い。一度体験したことがあるのだが、売り出し中のアパートをバーチャルに見学できたりする。視線を移して部屋の中を見回したり、外からアパートを見上げたりできる。周辺の環境も手に取るようにわかるのは、現在のウェブでよくあるバーチャル・ツアーとは大違いだ。

 バーチャル・ツアーと言えば、旅行業にも役立つ。今度旅行したい先、泊まりたいホテルなどをVRでチェックするというのも手だろう。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月中古住宅販売、0.5%増の413万戸 高金

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story