コラム

ヒラリーに学ぶ私用メールと社用メールの使い分け

2015年03月28日(土)16時18分

 アメリカのヒラリー・クリントン前国務長官が、長官在任中に私用のメールアドレスを使って国務省のスタッフや外部の関係者などとの公務に使用していた問題。発覚してから1カ月近く経つが、まだはっきりとした決着がつかない状態だ。

 それにしても、政府高官の地位にある人物が私用のメール・アカウントを使って一部でも仕事をやっていたというのは驚きだ。外交や国防に関するやりとりを、われわれが使っているのと同じような私用メールでやって大丈夫なのか、と心配になる。
 
 ただ私用とは言っても、Gメールやヤフー・メールなど無料サービスの類いではなかった。クリントンの場合は、クリントン家のための独自のドメイン「クリントンイーメール・ドットコム」を使っていた。しかも、メール・サーバーは自宅に設置してあるという。

 オフィシャルなメール・アカウントか、それともプライベートなメール・アカウントかという問題は、国務長官でなくても遭遇する問題だ。一般人のわれわれでも、企業に務めていれば、オフィシャルとプライベートのアカウントを使い分けなければならない。あるいは少なくとも、その違いを知っている必要がある。

 クリントンのケースで問題になっているのは、政府関係者という公の立場で行われたやりとりはすべてアーカイブ(記録)されなければならないのに、それが完全にできなくなったという点だ。アーカイブされたものは、いずれ情報公開法によって国民からの要請があれば公にされなくてはならないことになっている。

 クリントンは今回、国務省からの要請を受けて、「プライベートなやり取りを除いた」全メールを提出したという。娘チェルシーの結婚式の準備や、母親の葬儀の段取りなどを含む私事に関するものは除いたということだ。だが、個々のメールがプライベートかどうかを決めたのは、今のところ彼女でしかない。

 このアーカイブという点では、企業にも同様の法律が適用されるところがある。たとえば株式ブローカーがそうだ。何らかの犯罪の疑いが浮上した場合に、捜査がそこにアクセスできるようにするためだ。たとえそうでなくても、何か企業で不正疑惑があると、FBIがすかさず家宅捜索に入ってコンピューターや携帯電話を持ち去るのが通例だ。

 日本でも企業によっては、仕事上は必ず会社のオフィシャルなメールを使うことを義務づけているところがあると思うが、アメリカでは仕事でプライベート・アカウントを使うと、自動的に首になる会社もあるほど厳しい。

 そもそも、オフィシャルなアカウントを使っていれば、会社がメールをモニターしていると思っていい。会社側は、インサイダー取引や談合、企業秘密の漏洩などの不正が起こるのを防ぐために、社員のメールをモニターする。最近ならば、人工知能を用いてモニター作業をおこなっていることもあるだろう。

 怪しいことをすると、オフィシャルなメールの場合はわかってしまうということだが、これは一方で、談合など、仕事熱心のあまりに起こしそうになる犯罪をくい止めてくれるという見方もある。もしプライベート・アカウントを使っていれば、それはない。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

MAGAZINE

特集:パックンのお笑い国際情勢入門

2019-8・20号(8/ 6発売)

世界のニュースと首脳たちをインテリ芸人が辛辣風刺──日本人が知らなかった政治の見方お届けします

※次号は8/20(火)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    世界が発想に驚いた日本の「ロボット尻尾」、使い道は?

  • 3

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 4

    世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?

  • 5

    「日本は代が変わっても過去を清算せよ」金正恩が安…

  • 6

    世界が知る「香港」は終わった

  • 7

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 8

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......そ…

  • 9

    9.11を経験したミレニアル世代の僕が原爆投下を正当…

  • 10

    未成年性的虐待の被告の大富豪が拘置所で怪死、米メ…

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断国家の世論割れる

  • 3

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 4

    日本の重要性を見失った韓国

  • 5

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 6

    世界が発想に驚いた日本の「ロボット尻尾」、使い道…

  • 7

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......そ…

  • 8

    犯人の容姿への嘲笑に警告 9万件のコメントを集めた…

  • 9

    世界が知る「香港」は終わった

  • 10

    未成年性的虐待の被告の大富豪が拘置所で怪死、米メ…

  • 1

    水深450メートル、メカジキに群がるサメ、そのサメを食べる大魚

  • 2

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 3

    巨大なホホジロザメが一匹残らず逃げる相手は

  • 4

    日本の重要性を見失った韓国

  • 5

    子宮内共食いなど「サメの共食い」恐怖の実態

  • 6

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 7

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 8

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 9

    「韓国の反論は誤解だらけ」

  • 10

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいつ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!