コラム

社会党が軍事介入する皮肉

2013年02月27日(水)17時40分

 平和憲法を守り、戦争はしない。今は社会民主党と名前を変えましたが、日本社会党の時代から、これが党の精神でした。

 社会党という名前なら、どこでも戦争反対かというと、そうではないのですね。フランスの社会党の大統領は、アフリカ・マリでの軍事行動に乗り出しました。

 マリは、地図で見るとフランスから遠く離れているように見えますが、フランス国内から直接空爆できる距離にあるそうです。フランス北東部のサンディジエ基地から飛び立った4機の戦闘機が、4時間後にマリ北部のイスラム過激派の訓練キャンプを爆撃したと、本誌3月5日号の記事『「世界の警察官」を目指すフランス』は伝えています。

「イラクでの腰の引けた態度をアメリカ人に揶揄されたのは過去の話。今やフランスは、アフリカで拡大しつつあるイスラム過激派との戦いで先頭に立っている」というのです。

「オランドにとってマリは、自分も国外で戦力を展開できることをアピールして、存在感を示す舞台になった」

 ここまでは、なるほどと思いながら読んできましたが、この記事は、後半に差し掛かると、突然トーンが高くなります。次のように。

「相対主義的な政治が蔓延する世界で、現在はフランスだけが、民主主義は絶対的で不可侵な権利だと守護役を買って出ている」

「世界のどの国も行動を起こそうとしないなかで、フランスが行動する意欲を見せたことは間違いない。フランスの戦闘機やヘリコプター、空挺部隊が火ぶたを切ったのは、アフリカに民主主義と平和を広めるための戦いなのだ」

 いやあ、読んでいて頭がクラクラしてきます。「フランス」を「アメリカ」に置き換えたら、2003年頃にアメリカのネオコンが言っていたことと、そっくりではありませんか。ネオコンにそそのかされてブッシュ大統領がイラクを攻撃し、どんな目にあったかは、ご存じの通り。この記事の勢いだと、オランドはまるでフランス版ネオコンではないですか。

 それにしても、戦争反対派のはずのアメリカのオバマ大統領が、無人機で「テロリスト」とみなした人物の暗殺を続けていたり、社会党政権になったらフランスが軍事介入をしたりと、世の中は皮肉なものです。

 タカ派政権は平和を、ハト派政権は戦争をもたらす。これが国際情勢のパラドックス。ここでも、それが当てはまるのでしょうか。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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