コラム

アフリカは投資を待つ

2013年03月13日(水)17時33分

 今年2月、アフリカのケニアとモザンビークを取材しました。日本からはドーハ経由でナイロビへ。ケニアでの取材が終わった後、ナイロビからいったん南アフリカのヨハネスブルクへ出て乗り換え、モザンビーク第2の都市ナンプラへというコースでした。

 長時間のフライトで、日本にいるときより長い睡眠がとれ、睡眠不足を解消できたという利点はあったものの、いかんせんアフリカは日本にとって遠い場所です。

 ナンプラでは、空港の税関職員の腐敗にビックリ。入国の際も出国の際も、スーツケースから金目の物を見つけ出すのに必死で、入国手続きが遅れようが意に介しません。何かと難癖をつけ、それに真面目に応えようとしていると、しびれを切らして、「マネー、マネー」と囁くではありませんか。

 いまどき、まだこんな国があるのか。驚かされましたが、そのモザンビークも、内戦の傷跡から立ち上がりつつあります。

 ケニア駐在の日本人ビジネスマンたちから話を聞くと、アルジェリアの日本人人質事件以降、日本にいる家族や親戚、友人から「そんな危険なアフリカから帰って来い」と言われるそうです。

 事件が起きたアルジェリアのプラントとケニアのナイロビの距離を日本に当てはめると、東京とパプアニューギニアほどの距離になります。言ってみれば、欧米の駐在員が、「パプアニューギニアで事件が起きたから、そんな危険な日本から戻って来い」と言われるようなものなのですが。

 アフリカは、いま大きく動き出しつつあります。そんなアフリカの現状を見ようと出かけたのですから、本誌3月12日号の「進化するアフリカ新時代」の特集は我が意を得たり、です。

 日本人の多くのアフリカのイメージは、飢餓と貧困に苦しむ暗黒大陸でしょう。そんな状況が、まったくなくなったわけではありませんが、大きく変化しています。

 過去には先進国が長期にわたって多額の援助を注ぎ込んでも一向に発展しようとしなかったアフリカですが、2001年のアメリカ同時多発テロ以降、資源価格が高騰し、多くの国で経済環境が好転。自律的な経済成長が実現しつつあります。

 そんなアフリカの要求は、「援助より、もっ投資を!」ということでしょう。

 援助の大切さを否定はしませんが、問題は援助の仕方です。「可哀想だから援助してあげる」方式では、決していい結果にはなりません。

 これが投資ですと、投資した企業は、簡単に本国に逃げ帰るわけにいきません。アフリカに対する長期的なコミットメントが期待できます。

 投資を受け入れたら、収益を上げなければなりません。現地の人たちは必死に働くようになります。投資に見合った配当を出せれば、ビジネスパートナーとは対等な立場。卑屈になる必要はありません。アフリカの人たちも、誇りを持って働ける、というわけです。

 本誌の特集にあるように、アフリカ開発銀行の推計によると、2000年にはアフリカの中間所得層は約2億2000万人で、人口の27%でした。それが、いまでは約3億5000万人で、全体の34%を占めるまでになりました。

 アフリカには54もの国がありますから、個別には事情が大きく異なりますが、それでも援助される地域というよりは、投資を受け入れる地域となりつつあります。その先に、巨大マーケットの存在が見えてきます。

 アフリカは、地球最後のフロンティアなのです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story