コラム

無人機はこうして攻撃する

2013年02月19日(火)15時57分

 昨年、アフリカ北部のジブチで取材中、米軍基地に向けて着陸態勢に入っていた米軍の無人機を目撃しました。滑るように私の上空を通過し、米軍基地の中に入っていきました。その先は、基地のフェンスで見えませんでした。

 その場所から見て、アラビア半島南部のイエメンでの作戦行動の帰りだった可能性があります。

 では、この無人機は、どのような行動をとっているのか。本誌2月19日号の「知っているようで知らない無人機攻撃の怖さ」が取り上げています。

 米軍の無人機の運航基準について、米NBCニュースが入手したオバマ政権の内部文書を解説しています。

 たとえば2011年9月、イエメンでアルカイダ系組織の指導者で米国籍のアンワル・アル・アウラキが無人機攻撃で殺害された事件。訴追されていない人物の殺害は、米憲法修正5条(法に基づく適正な手続きなしに生命を奪われない)違反ではないかという批判がありました。

 文書によれば、外国にいる人物でも「切迫した脅威」を及ぼせば殺害できると定めているというのです。「切迫した」脅威を認定するのは、攻撃する人間なのですから、客観的な判断にはなりません。

 「標的リスト」に新たなターゲットを追加する場合は、「オバマ大統領自身が承認しているといわれる」。つまり、オバマ大統領の命令で殺害が実行されているのです。

 では、誰が殺害されているのか。「最近はアフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリアで反政府武装勢力の下っ端戦闘員が標的にされ、相手の身元がよく分かっていないこともある」

 集団の行動パターンが少しでも武装勢力のように見えたら標的にするという「識別特性爆撃」も実施されているというのですから、これでは無差別攻撃に近いといっていいでしょう。

 民間人が犠牲になることはないのか。「CIAは無人機作戦の犠牲者が成人男性だった場合」は、「戦闘員」として数えているそうです。これでは、殺せば殺すほど、「戦闘員」を殺害していることになります。

 驚くべき論理ですが、そういえば、ベトナム戦争中も、米軍が殺害したベトナム人は、まとめて「ベトコン」(南ベトナム民族解放戦線に対する差別語)と見なしていたことを思い出します。米軍は、いつの世も変わっていないようです。

 犠牲者数はどれくらいなのか。調査報道協会の推定では、「死者数は多めに見積もって3000~4500人だという」。

 なんというアバウトな。人が殺されているのに。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story