コラム

【ウェブ対談:池田信夫×冷泉彰彦】慰安婦問題の本質とは何か<1>

2015年02月20日(金)12時46分

冷泉 その経緯はある程度、アメリカにも伝わっています。それでもわからないのは、人身売買の対象になって管理売春をさせられ、大変な人生を経験した女性がいる。そういう女性たちが複数いるのに、なぜ今になって「強制連行」ではなく民間ベースの不幸な事例だと認定して、日本人のプライドを満足させられるのか、ということ。どうしてそういう修正をしたいのか。

 日本の世論というか現政権の中にも、「強制を否定」することで、日本の過去の名誉回復もできるし、自分たちの名誉回復もできる、朝日新聞の誤報で自分たちの人権が侵されているみたいな認識が広がっていますよね。

池田 日本人も誤解しているんですよ。名誉とかはそもそも関係なく、これは戦後補償の問題です。もしかして日本軍の戦争犯罪があったかもしれない、ということでメディアが取材し、92年ごろまでは「本当かもしれない」と思われていた。ところが吉田が「嘘でございます」と言った瞬間に、この話は終わったんですよ。

 もちろん道義的な責任はありますよ。そこを日本側も「名誉の問題」にして、ナショナリズムに訴える形で日本の体面を保とうとした。それがかえって、韓国のナショナリズムを刺激して、どんどん脱線してしまった。

冷泉 その経緯が大事ですよね。

池田 外務省も認識は同じで、93年の段階でもう「強制連行」はないと判明したので、あの「河野談話」が出た。日本側としては、日韓条約で解決しているけれども相手のお気持ちもわかるので示談金を出します、というスタンス。韓国側も、もう賠償問題にはしません、ということで外交上の手打ちにした。

 要するに戦後補償と外交の問題です。これは朝日の元記者の下村満子さん(95年設立のアジア女性基金の理事も務めた)もまったく同じ意見です。ところが、朝日の中におかしな強硬派がいて、「示談金じゃダメだから国家賠償をしろ」と言い出した。

冷泉 右派は右派で、戦前の名誉回復にこだわるし、左派は左派で、戦前のことに関して国家賠償しろと言うし。右派も左派も戦前とつながっている日本にしたいのか、と理解不能になりますよ。

池田 だから両方とも誤解している。

≪次回<2>に続く≫

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の出生権主義見直し、地裁が再び差し止め 

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の

ワールド

英仏、核抑止力で「歴史的」連携 首脳が合意

ビジネス

米エヌビディア時価総額、終値ベースで4兆ドル突破
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    昼寝中のはずが...モニターが映し出した赤ちゃんの「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story