コラム

日本の「失われた20年」は「10年×2」だった?

2012年01月12日(木)21時06分

 1990年代は「失われた10年」と呼ばれたが、その後も日本経済は回復しないため、最近では「失われた20年」と呼ぶことが多い。しかし日本銀行の白川方明総裁は、今月ロンドンで行なわれた講演で、これに異をとなえた。

 前半はバブル崩壊にともなう不良債権処理によるものだったが、これは2003年ごろに終わった。日本の2000年代の実質GDP成長率は、左の図ように主要国で最低だが、これは高齢化で労働者が退職した影響が大きい。生産年齢人口一人当たり成長率で見ると、右の図のように主要国で最高である。


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2000年代の実質GDP成長率


 つまり日本は、90年代の落ち込みから2000年代には回復したが、急速な労働人口の減少がそれを打ち消してしまったのだ。したがって日本は20年失ったのではなく、前半の10年は金融危機の処理の失敗が原因だったが、後半の10年は「世界の経済史に例を見ないような急速な高齢化や人口減少」が低成長の原因だった。日本の失敗は愚かな経済政策によるもので、他の国では同じことは起こらないと考えられていたが、今では欧米諸国が日本の後を追っている。それは日本のように「長く曲がりくねった道」になるだろう――というのが白川総裁の見立てである

 おもしろいことに、ポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)も同じことを書いている。2007年の日本の成長率は、生産年齢人口一人当たりの成長率で見ると1990年ごろの水準に回復しており、2008年以降の落ち込みは世界金融危機によるものだ。むしろアメリカの状況は日本より悪い、と彼は述べている。

 これには異論もあろう。日本は90年代に実質ゼロ成長だったので、2000年ごろには他国と大きな差がついており、バブル崩壊前のトレンドに戻るだけで成長率は高くなる。クルーグマンがその後の記事で書いているように、日本の労働者一人当たりのGDPは90年代以前のトレンドの延長に戻っただけで、絶対的には高くない。全体として日本経済が低成長に入ったことは明らかであり、20年かかって通常の成熟状態に戻っただけだ。

 白川総裁のいうように欧米諸国がこれから日本のあとを追うとすれば、2008年を起点にすると、あと5年は「世界経済の失われた10年」が続くおそれが強い。日本の教訓は生かせないのだろうか。この点についてクルーグマンは「日本銀行はもっと積極的な金融緩和を行なうべきだった」としているが、白川総裁は「バランスシート調整が続いている状況では金融政策の有効性が低下する」という。企業が過剰債務を返済しているとき、金利を下げても資金需要がないからだ。

 これは世界経済にとっては重要な問題である。白川総裁もいうように、FRB(連邦準備制度理事会)のQE2(量的緩和第2弾)など、世界の中央銀行のとっている政策は10年前に日銀のとった政策をまねているが、日本の教訓はこうした政策の効果は実体経済が回復しない限り限定的だということだ。白川総裁は金融政策にできるのは、しょせん「時間を買う」ことでしかないと述べて、構造改革の必要を強調している。

主要国の短期金利がゼロ近くに低下している中で、日本銀行を含め、主要国の中央銀行は様々な非伝統的政策を使って長期金利を引き下げたり、信用スプレッドを引き下げることによって金融緩和効果を創出する努力をしている。しかし、それと同時に、中央銀行がこうした措置を講じて時間を買っている間に、必要な構造改革を進めることが不可欠であることを感じる。

 金融危機からの回復には、近道はない。この「長くて曲がりくねった道」は、まだしばらく続くことを覚悟しなければならないようだ。今はその道の先に断崖絶壁が待っていないことを願うしかない。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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