コラム

昆虫界でも「イクメン」はモテる! アピールのために「赤の他人の卵」の世話すらいとわず

2025年05月17日(土)10時50分
コオイムシ

fish1715-Shutterstock

<「良いイクメンになりそう」と思われるために必死なのは昆虫も同じ? 日本や東アジアに分布するコオイムシの世界では「卵を背負っているオスは背負っていないオスよりもモテる」「自分の子ではない卵でも背負うことにメリットがある」ことが明らかに>

男は仕事、女は家事・育児という価値観は遠い昔のものとなり、昨今は男性が子育てに協力しないことは離婚事由になることすらあります。

育児に積極的に関与する男性を称する「イクメン」という言葉は、2000年代に急速に普及し、10年にはユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに入りました。その後も一過性のブームで終わることなく、男女共同参画社会を表すひとつのムーブメントとして定着しています。

20年の国勢調査によると、男性の生涯未婚率(50歳時に結婚したことがない人の割合を「45歳~49歳」と「50歳~54歳」の未婚率の平均値から算出したもの)は28.3%でした。40年には30%を超えると推定されています。

結婚したい男性にとって、女性に「イクメンになりそう」と思われることは大きなセールスポイントとなりそうです。そしてそれは人間の世界だけでなく、他の生物にもあてはまるかもしれません。

鈴木智也・広島修道大助教、大庭伸也・長崎大准教授と東城幸治・信州大教授による研究チームは、昆虫の世界で「イクメンアピールしたオスの優位性」を示すことに成功しました。オスが卵を背負って子(卵)の世話をする「コオイムシ」で、「卵を背負っているオスは背負っていないオスよりもモテる」「自分の子ではない卵でも背負うことにメリットがある」ことを明らかにしたのです。研究の詳細はオープンアクセスの国際学術誌「Ecology and Evolution」に4月24日付で掲載されました。

昆虫の世界で「イクメンがモテる」とはどんな状況なのでしょうか。怠け者のオスはモテないまま朽ちるしかないのでしょうか。さらにメスは「良いイクメンを捕まえる」以外に、どんな戦略を立てているのでしょうか。概観してみましょう。

漢字表記は「子負虫」

コオイムシは、成虫で体長2センチ程になる水生カメムシ(カメムシ目コオイムシ科の昆虫)です。岐阜地方では「ケロ」とも呼ばれます。

日本全国や中国、朝鮮半島に分布しており、小魚、オタマジャクシ、貝類などを食べて生活しています。かつては水田や浅い用水路、ため池などでよく見られましたが、水田の減少や農薬散布の影響で激減し、環境庁レッドリストによると2020年時点で準絶滅危惧種となっています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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