コラム

カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

2024年06月05日(水)21時30分

「7歳くらいの子供に匹敵する」と考える研究者もいるカラスの知能ですが、今回のテュービンゲン大の研究では、「カラスはまさに幼児と同じような思考能力を使って、声に出しながら数を数えている」ことが判明しました。

この研究の重要な部分は、カラスが数の概念を持っているところではありません。数の感覚自体は様々な動物に備わっている能力です。

これまでの研究では、たとえばセイヨウミツバチは4までの数を認識し、訪れる花の順序を覚えて効率的に蜜を集めたり、巣に帰る時の手がかりに使ったりしていることが分かっています。

アフリカライオンのメスの群れに、別の群れのメス1頭の唸り声を聴かせると戦う姿勢を取りましたが、3頭以上の唸り声の場合は躊躇したという報告もあります。ハイイロオオカミでは、自分の群れの数によって狩る獲物の大きさを決めており、9匹以上いる時しかパイソンを狩ろうとはしない様子も観察されました。

ヒトだけが持つと考えられてきた能力

今回の研究論文の責任著者にもなっている神経生物学者のアンドレアス・ニーダー博士は、動物の数の認識に関する150以上の論文を分析し、「数に関する何かしらの能力は、ほぼすべての動物に備わっている」と結論づけています。

一方、数を声に出しながら数え上げることは、数を理解する能力と発声をコントロールする能力を高度に組み合わせなければならず、ヒトだけが持つ能力と考えられてきました。

ヒトは数を覚え始める幼少期、3つの物を「いくつ?」と尋ねられると、単に「3」と答えるのではなく、「1、1、1」や「1、2、3」と物体の数と同じだけ発声して数えます。もっとも、小さい子供は、発声の数は正しくても「1、1、4」などと数字の名前はごちゃ混ぜになってしまうことがあります。それだけ、数の概念を声とリンクさせて正しく数え上げることは難しいのです。

本研究では、3匹のハシボソガラス (学名:Corvus corone) を対象として実験を行いました。カラスたちは、任意の記号や音声で視覚と聴覚の両方の刺激が与えられ、それに応じて1~4回の鳴き声を出し、終了の合図を押すように訓練されました。たとえば、2という数字や2回の音に対して、カラスが2回鳴いてEnterキーをつついて終了を知らせることができれば、報酬(エサ)がもらえます。

実験の結果、すべてのカラスがカラス語で「1、2、3、4」と数に応じた違う鳴き声を出しながらカウントしていき、偶然以上の高い確率で、予め合図で決められていた回数でピタッと止めることができました。間違った場合でも、1回多いか少ないかという近い値での間違いでした。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米司法省、FRBに財務状況の明確化要請 CFPB資

ワールド

メキシコ・ブラジル首脳が自制と対話呼びかけ、ベネズ

ワールド

原油先物1%超上昇、米のベネズエラ制裁対象タンカー

ワールド

欧州議会、ロシア産ガス輸入停止計画を承認 2027
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story