コラム

カーレーサーはレース中、きまって「ある場所」でまばたきしていることが明らかに

2023年05月30日(火)12時50分
カーレーサー

まばたきのタイミングを誤れば命を失う危険も(写真はイメージです) simonkr-iStock

<乾燥から目を守るためにヒトは3秒に1回の頻度でまばたきをしているが、最近の研究では「発生頻度は、精神状態によって大きく変化する」という指摘もある。認知科学とも結びついているまばたきの謎について掘り下げる>

人類は科学技術の力を借りて、宇宙空間や深海などの過酷な環境条件の中での活動を可能としてきました。もちろん、厳しい環境に適応するためには、ヒトも十分な訓練が必要です。

陸上で過酷な状況に置かれる職業の一つが、カーレーサーです。時速300キロにも達するフォーミュラカーを操りサーキットを周回する間は、適切ではない場所でまばたきをすれば、ドライバーは視界のないまま数十メートル進み、命を失う危険すらあります。

日本電信電話株式会社(NTT)と、カーレーシングチームを運営するダンディライアン社は、サーキットを高速周回中の複数のレーサーは、コース上の同じ場所でまばたきしていることを世界で初めて示しました。本研究の成果は米科学誌「iScience」(オンライン版)に、5月19日に掲載されました。

まばたきは目の乾きを潤したり、角膜表面のゴミを流したりする働きが知られています。けれど、最近は認知科学分野からアプローチした研究成果が多く報告されています。今回の研究とともに、まばたきの科学についても深掘りしてみましょう。

ヒトは必要回数の3倍以上まばたきしている

まぶたを開閉する「まばたき」は、医学用語で「瞬目」と書きます。英語ではwinkやblinkと呼ばれます。

そもそも眼は、角膜や水晶体のような無色透明な組織で構成されており、乾燥にとても弱い器官です。乾燥すると角膜が傷つきやすくなったり、細胞が硬化して透明性が保てなくなったりするため、生物が海から陸上に進出する際に「目を乾燥から守る方法」が必要になりました。

そこで、現れたのが目の蓋の役割を果たす「まぶた」です。まばたきでまぶたを定期的に閉じることによって、常に眼の表面を涙で潤わせて、乾燥しないようにできるようになりました。

ただし、陸生生物の中には、まぶたを持たずに独自の乾燥解消法を取得した動物もいます。たとえば、ヤモリは、長い舌で自分の眼を舐めることで乾燥を防ぎます。ヘビは、角膜の表面が透明な鱗で覆われており、まぶたがなくても保湿されています。

もっとも、ヒトはおよそ3秒に1回の頻度で自発的にまばたきをしています。1回につき0.2~0.3秒間ほど目を閉じるので、起きている時間の約10%で視覚情報が遮られていることになります。ところが、涙によって眼を潤すためには20秒に1回程度のまばたきで十分と示す研究があります。なぜ、必要回数の3倍以上の頻度でまばたきをするのかは、未だ分かっていません。けれど、目を潤す以外に理由があるはずです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政府機関の一部が短期間閉鎖へ、予算案の下院採決持

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名

ワールド

焦点:トランプ政権、気候変動の「人為的要因」削除 

ビジネス

アングル:機内WiFiは必需品か、マスク氏とライア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 2
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story