コラム

H3ロケット「中止か失敗か」論争、若田宇宙飛行士の船外活動 2つのJAXA記者会見に参加して思うこと

2023年02月21日(火)12時20分
打上げを中止したH3ロケット試験機1号機

打ち上げを中止したH3ロケット試験機1号機(竹崎観望台より撮影) 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

<H3ロケットは、日本の大型ロケット開発の歴史においてどのような位置付けなのか。同日に行われた記者会見で若田光一宇宙飛行士が語ったこととは。2つの記者会見に参加した筆者が紹介する>

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年2月17日、種子島宇宙センターにてH3ロケット試験機1号機の打ち上げを試みました。けれど、発射カウントダウン中に第1段機体システムが異常を検知して、発射には至りませんでした。

ロケット打ち上げが「成功しなかった」ことは間違いありません。では、「失敗」なのでしょうか。

今回は、経過説明の記者会見でのやりとりがYouTubeのJAXA公式チャンネルを通じて誰でも見られたために、「打ち上げ中止」なのか「打ち上げ失敗」なのかをJAXA担当者に問う記者たちの態度にも注目が集まりました。

一方、同日は、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の若田光一宇宙飛行士の記者会見もありました。全体で20分という限られた時間の中、質問は4名によって行われ、筆者もその1人として若田さんと対話しました。

JAXAはNASA(米航空宇宙局)と並び称せられる存在で、活動は一般からも高い関心を寄せられます。H3ロケットについておさらいし、2つの記者会見についても概観しましょう。

◇ ◇ ◇


日本の人工衛星打ち上げ用ロケットの歴史は、1970年10月に開発がスタートし、75年に技術試験衛星「きく」を搭載して打ち上げに成功した「N-Iロケット」に始まります。JAXAの前進である宇宙開発事業団 (NASDA) と三菱重工業が、米国のデルタロケットを基に製造した全長32.57メートルの三段式ロケットで、82年まで運用されました。

以来、N-II(76年から開発、81~87年に運用)、H-I(81年から開発、86~92年に運用)、H-II(86年から開発、94~99年に運用)、H-IIA(96年から開発、2001年から運用、現役)、H-IIAの姉妹機でISSに物資を運ぶH-IIB(09~20年に運用)と続きます。直近では23年1月26日に、情報収集衛星「レーダ7号機」を搭載したH-IIA 46号機が打ち上げに成功しました。

H3ロケットは、H-IIA/Bの後継機です。14年度から開発がスタートし、総開発費は約1900億円とされています。H-IIの改良開発だったH-IIA/Bとは異なり、打ち上げコスト削減や他国からの受注を視野に入れて、設計コンセプトを抜本的に見直しました。

機体は、搭載する衛星によって全長57~63メートルとなる二段式ロケットで、必要に応じて第1段メインエンジン(LE-9)の数、固体ロケットブースター(SRB-3)の数、フェアリングのサイズを変えて効率的に打ち上げることができます。さらに、H-IIA/Bまでは特注品としての製造でしたが、自動車や航空機のライン生産に近い形を取ることで、製造期間の短縮やコスト削減を実現しました。打ち上げ費用も、H-IIAの約100億円から半減の50億円にできる見込みといいます。

開発のコンセプトは、これまでの日本の大型ロケットはすべて「使い捨て型」であることも影響していそうです。打ち上げたロケットは回収・再使用されないので、諸外国に日本産ロケットを売り込むには、高い信頼性とともにコスト安を極める必要があります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:トランプ税制法、当面の債務危機回避でも将来的

ビジネス

アングル:ECBフォーラム、中銀の政策遂行阻む問題

ビジネス

バークレイズ、ブレント原油価格予測を上方修正 今年

ビジネス

BRICS、保証基金設立発表へ 加盟国への投資促進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story