コラム

人類滅亡まであと100秒... 科学的根拠のない「世界終末時計」に価値はあるのか

2022年02月08日(火)11時25分

さらに近年では、世界終末時計の残り時間は核問題だけではなく、生物・化学兵器や気候変動問題などにも影響されるようになりました。開設以来、残り時間は24回の改定があり、1989年からは環境破壊や生命科学の脅威も時計の針が進む原因に挙げられています。

原子力科学者会報自体も、現在は地球温暖化、気候変動、感染症なども人類への脅威になる事象として取り上げるようになり、非専門的な学術誌へと移行しています。けれど、世界終末時計で「あの理由でもこの理由でも、人類は滅亡の危機にある」と述べることは、本来の「核兵器の脅威に対して科学者が説明責任を果たし、市民を啓蒙する」という同誌の特徴が損なわれることになり、時刻の信憑性や切迫感も薄れさせています。

同誌は、今年の世界終末時計を発表する際に、「時計の針は3年連続で最短を維持しており、世界は非常に危険な瞬間に立ち尽くしている」と警告しました。

漠然としたコメントですが、世界終末時計がキャッチーで毎年ニュースになるという長所を持つことは確かです。いっそ、科学技術の負の部分を思い起こさせてくれる年一回の啓蒙イベントとして、割り切って見守るべきなのかもしれません。科学技術の脅威と面白さを一般に伝える「イグ・ノーベル賞」のディストピア(暗黒世界)バージョン、それが「世界終末時計」の正しい評価でしょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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