最新記事

サイエンス

光吸収率99.995%、世界で最も黒い物質が発見される

2019年9月25日(水)17時45分
松岡由希子

200万ドルのダイヤモンドを世界で最も黒い物質で塗りつぶす...... Image: Diemut Strebe

<世界で最も黒い物質が、米マサチューセッツ工科大学らの研究チームによって発見された......>

光吸収率99.995%の世界で最も黒い物質が、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のブライアン・ウォードル教授や上海交通大学の崔可航准教授らの研究チームによって発見された。

200万ドルのダイヤモンドを塗りつぶした

芸術家のディームート・ストレーブ氏は、研究チームと協力し、200万ドル(約2億1500万円)相当の16.78カラットのイエローダイヤモンドをこの黒い物質で塗りつぶしてブラックホールのような芸術作品「リデンプション・オブ・バニティー」を制作。2019年9月13日、ニューヨーク証券取引所で公開され、話題となっている。

左のダイヤモンドが黒い物質で塗りつぶされた Image: Diemut Strebe

blackest0925.jpg

ニューヨーク証券取引所で展示された

最黒の物質は、垂直配向カーボンナノチューブ(CNT)からなり、その電気的特性や熱的特性を高めるべく、塩素エッチングしたアルミホイルの上で成長させる実験を行っていた際、偶然生成された。

航空宇宙の分野で関心が集まっている

これまで最も黒い物質とされてきたベンタブラックの10倍にあたる99.995%以上の光をあらゆる角度から吸収する。一連の研究成果は、9月12日、アメリカ化学会(ACS)の学術雑誌「アプライド・マテリアルズ・アンド・インターフェース」で公開されている。

電気的特性や熱的特性の高いカーボンナノチューブをアルミホイル上で成長させるにあたり課題だったのは、アルミニウムが空気にさらされると、酸化層がアルミニウムを覆い、電気や熱を遮断してしまうことであった。

研究チームでは、アルミホイルを塩水につけることで、酸化層を除去することに成功。さらにアルミホイルを無酸素環境に移して再酸化を防ぎ、化学気相成長(CVD)法により、オーブンに入れてカーボンナノチューブを成長させた。酸化層を除去することで、より低い温度でカーボンナノチューブを成長させることができたという。成長したカーボンナノチューブは、電気的特性や熱的特性が著しく高まっただけでなく、明らかに黒くなっていた。

崔准教授は「成長させる前、カーボンナノチューブの色がどれくらいの黒さであったかを覚えています。成長後の色のほうが黒くみえました」と実験の様子を振り返っている。現時点では、なぜこの物質がこれほどまでに黒くなったのかはわかっておらず、ウォードル教授は「さらなる研究が必要だ」と述べている。

最黒の物質には、航空宇宙の分野ですでに関心が集まっている。2006年にノーベル物理学賞を受賞した天体物理学者のジョン・マザー博士は、鏡筒内部などで発生する「迷光」から宇宙望遠鏡を保護する素材として活用できるのではないかと期待を寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀総裁、12月利上げへシグナル 低金利

ビジネス

ビットコイン5%安、9万ドル割れ 投資家のリスク回

ビジネス

百貨店11月売上高、日中悪化の影響限定的 「協調精

ワールド

旧統一教会の韓鶴子総裁、初公判で起訴内容否認 「政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中