コラム

AI革命は終わらない NVIDIAカンファレンスレポート

2017年05月22日(月)16時00分

VR環境でAIを訓練できるロボットシミュレーター、Isaac5  NVIDIA

<AI用の半導体トップNVIDIAのカンファレンスには、来るべきAI時代の最先端インフラがあふれていた。AIブームは去るのではなく、これからが本番だ>

米カリフォルニア州で開催されたAI半導体大手NVIDIA(エヌビディア)のカンファレンスGTC2017に参加してきた。「AIはブームにしか過ぎず、2~3年でブームは去る」。そういう意見が聞かれる中で、GTCでは、進化が加速したAI半導体と、それをベースにした各種ソフトウェアプラットフォームが発表された。AI革命のインフラとも呼ぶべき技術がさらに進化を遂げたわけで、たとえAIがブームであったとしても2~3年では終わりそうもないことが分かってきた。

【参考記事】AIはどこまで進んだか?──AI関連10の有望技術と市場成熟度予測

並列処理で科学、AI研究者御用達に

半導体業界には、ムーアの法則と呼ばれる有名な法則が存在する。ムーアの法則は、半導体メーカー大手Intelの創業者ゴードン・ムーア氏が1965年に提唱したもので、半導体の素子数が18カ月で2倍になる、という経験則だ。同氏がこの傾向に気づいたあとも、半導体の素子数は順調に18カ月ごとに倍々に増えていった。

ところが1990年代ごろから「ムーアの法則はいずれ頭打ちになる」と指摘されるようになってきた。基板上に一定幅以下の細い回路をプリントするのは、物理的に無理だというわけだ。

ムーアの法則が言及しているのは、CPU(中央処理装置)と呼ばれるタイプの半導体。CPUは、逐次処理、つまりコマンドを1つ1つ順番に処理していくタイプの半導体だ。

一方でNVIDIAが製造するのは、GPU(グラフィック処理装置)と呼ばれるタイプの半導体。GPUは並列処理、つまり複数のコマンドを同時に処理できる半導体だ。一人の能力が限界に達したのなら、仕事を複数の人間で手分けして行えばいい。そういう感じだ。

【参考記事】LINEのAIプラットフォーム「Clova」の何がすごいのか解説しよう

特にAIは、かなりの計算能力が必要になる。なので最近では逐次処理のCPUではなく、並列処理のGPUが重宝されるようになっているわけだ。

GPUは、グラフィックという名前がついている通り、もともとは主にコンピューターグラフィックスやゲームなどに使われていた半導体。その並列処理に最初に目をつけたのは、大量の計算処理を必要とする物理学や化学の研究者たちだった。

その流れで次にAIの研究者たちがGPUに飛びつき、今ではGPUはAI研究者御用達の半導体になった。そしてGPUのトップメーカーであるNVIDIAは、時代の寵児として華やかな舞台に躍り出たわけだ。

【参考記事】AI時代到来「それでも仕事はなくならない」...んなわけねーだろ

NVIDIAの年次開発者会議であるGTCには、世界の大手自動車メーカーを始め産業界のトップ企業、有名大学、有名研究所が顔を揃えるまでなっている。GTCの参加者は2012年が2300人だったが、昨年は約5000人、今年は7000人を超えた。5年間で3倍に膨れ上がったわけだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story