コラム

インテリジェンス機関をもてあますトランプ大統領

2017年07月21日(金)18時10分

2005年4月に新設された国家情報長官に最初に就任したのは外交官のジョン・ネグロポンテだったが、2年足らずで国務副長官に転出してしまう。残りのブッシュ政権末期まで務めたのが海軍退役中将のマイク・マッコーネルであった。

マッコーネルはこのポジションが気に入っており、2年足らず務めた後、引き続きオバマ政権でも留任できることを期待していた。マッコーネルは、オバマが大統領選挙で勝利した後、オバマと二人きりでブリーフィングを行ったとされている。そこで、サイバーセキュリティ対策を含むインテリジェンス活動の実態を示し、オバマを少なからず驚かせたようだ。

ブッシュの退任直前、ブッシュとオバマ二人きりでの引き継ぎも行われ、安全保障問題については二つのことが話された。一つはドローン(無人機)を使った中東のテロ対策である。オバマは2期8年の在任中、これから離れることができず、ドローン中毒とまで揶揄された。もう一つが、イランの核施設に対するサイバー攻撃である。民間ではスタックスネット攻撃と呼ばれたが、米国政府内ではオリンピック・ゲームズ作戦として知られている。ブッシュ政権時代から準備が進められていたスタックスネットは、オバマ政権になって実行に移された。

【参考記事】サイバー攻撃で、ドイツの製鋼所が甚大な被害を被っていた

マッコーネルの留任希望はかなえられず、海軍退役大将で、太平洋軍司令官も務めたデニス・ブレアがオバマ政権最初の国家情報長官になる。しかし、ブレアは望んだような仕事ができなかったことに失望し、1年4カ月で辞任する。その後、オバマ政権の終了まで6年以上にわたって務めたのがジェームズ・クラッパーだった。このクラッパーの在任中に、エドワード・スノーデンの事件が起きる。

NSA長官

民間の請負事業者としてNSAのために働いていたスノーデンがNSAの極秘資料を暴露するまで、NSAの存在は広く知られることはなかった。NSAは「そんな組織は存在しない(No Such Agency)」や「何も言うな(Never Say Anything)」の略だと冗談が言われていたのはよく知られている。

歴代のNSA長官も政治的には目立つ存在ではなく、レーガン政権時代の長官で、後に著書でNSAの活動を暴露したウィリアム・オドムが少し知られているくらいだろうか。パパ・ブッシュとクリントン時代には、後にDNIになるマッコーネルもNSA長官を務めていた。

NSAに人々の関心を引きつけることになったのが、2001年の対米同時多発テロを受けて息子のブッシュ大統領が令状なし傍受をNSAに許可したことであった。その事実が2005年末にニューヨーク・タイムズの記事によって暴露されたため、それを実行した当時のマイケル・ヘイデン前長官が注目されることになった。ヘイデンは、記事が出たときにはNSA長官からCIA長官に異動した後だった。彼は政府の秘密活動については直接的には弁明しなかったが、政府の役職を退任後、現在に至るまで政府のインテリジェンス活動を擁護する発言をしている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ

ビジネス

アップル、関税で今四半期9億ドルコスト増 1─3月

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P8連騰 マイクロソ

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story