コラム

トイレにも同行...G7で記者を厳しく監視するのは何のため?

2023年05月17日(水)13時20分
西村カリン(ジャーナリスト)
G7広島サミット

SOICHIRO KORIYAMA–BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<4月に起きた岸田首相への襲撃でピリピリしているのはわかる。しかし、G7諸国に要人警備の万全性を示したいのであれば、その対象は記者ではない>

今年は日本がG7の議長国で、G7サミット(首脳会議)が5月19~21日に広島で行われる。サミットの前にいくつかのG7関係閣僚会合が地方であり、私もラジオ・フランスの特派員として一部取材した。

重要な国際イベントを取材したことは何度もあるが、4月15~16日に札幌で開催された気候・エネルギー・環境大臣会合を取材して驚いたことがある。警備体制だ。

会合前の手続きはいつもと変わらず、記者であることを証明する身分証明書や会社からの手紙などを提出しないといけない。

厳しいチェックがあるのは当然で、それはどの国でも同じだ。記者証をもらったら、現場に設置されたメディアセンターの出入りが可能で、そこで記事を書いたりラジオのための編集を行うことができる。Wi-Fiや電源など必要な設備は整っていて、その面では全く問題なかった。

ただ困ったことがあった。警備上の理由で、メディアセンターが大臣会合の会場と同じ所になかったのだ。歩いて5分と大した距離ではないが、記者はなるべくグループで移動し、必ず官僚が同行することになっていた。

皆が同時に記者会見に出席するため移動するなら構わないが、それぞれがバラバラの時間帯に独自のインタビューもあったので、非常に不便だった。

また、建物の入り口で荷物チェックがあるにもかかわらず、会場内で自由にインタビューの場所や記者会見場に行くことは認められなかった。トイレにも「警備上の理由」から官僚が同行した。

記者たちはまるで、テロを起こすリスクのある人物のように扱われた。記者の待機場所もあったが、その狭い部屋には机や電源、Wi-Fiもなく、ちゃんと仕事ができるような環境ではなかった。

音響が悪かったので、部屋の入り口まで移動したらすぐに官僚3人が来て、「どこに行くつもりですか」と聞いてきた。

音響がいい所でナレーションを録音したいと言ったら「想定外」の要求だったようで、彼らはパニックに陥ったようだ。どうしたらいいだろう、という不安が顔や態度に表れていた。結局、時間もないのでその入り口の所で3人を前にして録音した。

この体制は警備のためというより、むしろ会合に参加したG7各国の大臣に同行する人たちに記者が声をかけないように、取材をしないように、記者を監視することが目的ではないかと思うほどだった。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story