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香港の挽歌

香港で次に起きる「6つの悪夢」 ネット、宗教、メディア...

FAREWELL TO HONG KONG’S FREEDOM

2020年7月9日(木)06時50分
サラ・クック(フリーダム・ハウス上級アナリスト)

国家安全維持法に反対するデモの制圧に動員された警官(7月1日) TYRONE SIU-REUTERS

<国家安全維持法が施行され、香港では共産党による締め付け強化が確実に進んでいく。知られざる国家安全維持法の命令系統、そして、すぐにでも現実のものになりかねない展開とは? 本誌「香港の挽歌」特集より>

香港で施行された国家安全維持法は、国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家に危害を加える行為という4つの活動を犯罪行為と定めている。これらはまさに、香港の人々が1年にわたり抗議の声を上げてきたことだ。
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この新法により、中国の治安機関は香港で初めて公に活動できるようになった。香港は中国の他の地域とは比べものにならない自由を長く享受してきたが、今後は当局による監視や抑圧が進み、反体制派の本土引き渡しも増える可能性がある。

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官と中国政府当局によれば、新法の標的は「極めて少数の違法行為」であり、「圧倒的多数の市民の基本的権利と自由は保護される」という。だが中国法制度の専門家は、多数の市民がまとめて逮捕されるケースが増えるとみている。

新法の施行によって、夏の終わりまでに6つの展開が起こりかねない。この一部、あるいは全てが現実になれば、香港の人々の不安は杞憂ではなかったことになる。

1. ジャーナリストの逮捕

昨年6月に逃亡犯条例改正案に反対する大規模デモが発生して以来、香港ではジャーナリストの抑圧や拘束が増えた。メディアを所有する大物実業家の黎智英(ジミー・ライ)は、デモ参加を理由に訴追された。

だが、今まで報道活動を理由に有罪となったジャーナリストはいない。本土と同じく香港でも、ジャーナリストが逮捕されたり、不公正な裁判の対象とされるのか注視すべきだ。

2. 反体制的なメディアへの圧力

1928年設立の香港の公共放送局RTHKは、その編集姿勢が香港で厚い信頼を集めている。だが、その独立性も危うくなってきた。

31年にわたって人気を呼んだ政治風刺番組『頭條新聞』が先頃打ち切りになったのは、当局の圧力のためとみられる。6月10日には中国政府がRTHKに派遣した顧問が、市民の「正しい判断」のために国家安全維持法を「肯定的」に伝えるよう促した。今後RTHKは、中国政府の宣伝機関になるかもしれない。

3. 法の遡及的適用

新法施行が明らかになると、ウェブサイトへの妨害を防ぎ、デジタル通信のプライバシーを保護するため、多くの香港人が仮想プライベートネットワーク(VPN)を購入した。

抗議デモの組織化に使われたソーシャルメディアのアカウントを削除する人も増えている。過去に行った投稿が、新法の下では国家分裂や政権転覆に関わるものと見なされかねないためだ。

【関連記事】香港の挽歌 もう誰も共産党を止められないのか

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