最新記事

介護

中国農村部の高齢者は不幸なのか

2019年10月24日(木)13時30分
片山ゆき(ニッセイ基礎研究所)

農村では、世帯扶養を中心に地域で支える介護モデル(2017年、上海近郊の農村でテレビを見る女性たち) David Stanway-REUTERS

<来年、介護保険制度が本格始動する中国。ハイテク介護の準備を進める都市部に対し、財源の行きわたらない農村部はいかに高齢化を生き残ろうとしているのか>

少子高齢化が急速に進む中国。来年の介護保険制度の本格始動を前に、都市部では、デイサービスやショートステイ、訪問介護などの介護サービスを提供する小規模多機能型施設や老人ホーム、高齢者マンションなど次々にオープンしている。加えて社会のデジタル化の進展とともに、介護のIoT化も進められつつある。例えば、最近オープンした上海市内のデイケアセンターを訪問すると、センサー付きの介護ベットを導入し、介護職員のタブレットや家族のスマホで、高齢者の健康状態が瞬時に確認できるという。人材不足の緩和、作業の効率化をはかり、介護サービスのデジタル管理にも一役買っている。ハード面だけを見ると、日本よりも進んでいるのではないかと思うほどだ。

翻って、農村部はどうか。農村部の問題として、こどもが都市部に働きに行ってしまい、高齢の夫婦のみまたはその孫(未成年)が農村で残され生活をする"空巣問題"が代表的である。介護の担い手がいない上、都市部にあるようなデイケアセンター、老人ホームがあるわけでもない。高齢者は見捨てられ、孤立し、、、という報道もよく見かける。確かにそういった問題もある。都市と農村の格差を声高に非難することは簡単であろう。しかし、現地で限られた予算内で、試行錯誤しながら行われている取組みは極めて現実的である。

筆者は6月に上海市郊外の農村部でのある取組みを見る機会を得た。ビル群の上海市内からバスで向かったが、降り立った瞬間、土のにおいがした。目の前には畑が広がっている。上海市郊外で実施されていたのは、空き家を活用した"高齢者向けのカフェ"の開設である(写真参照)*。イメージとしては、高齢者が集まる"集会所"が近いかもしれない。この高齢者カフェでは、まず、一番の問題とされる食事(昼食)を解決している。また、食事の提供以外にも、健康講座や困りごとの相談、レクリエーションと大きく分けて4つの内容について実施している。訪問した際は、軒先で集まった高齢者が楽しそうに、懐かしい歌を歌っていた。

nissei191023_china.jpg

運営はNPOが行っているが、日々の食事の準備などには住民もボランティアで深く関わり、地域の結びつきの強さが感じられた。地域内で、前期高齢者が後期高齢者を支えている形だ。

――――――――――
*例えば日本では、高齢者の外出支援と認知症予防ケアを目的とした「オレンジ・カフェ」の取組みなどがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 4

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 5

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 8

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中