最新記事

感染症

どの抗生物質も効かない......「スーパーバグ」が世界に蔓延、豪科学者が警告

2018年9月20日(木)19時50分
松丸さとみ

どの抗生物質も効かない…… REUTERS/Fabrizio Bensch

表皮ブドウ球菌の変異株3種

「スーパーバグ」(超細菌)といえば抗生物質が効かない細菌だが、複数の抗生物質が効かないものが人知れず世界中の病院にじわじわと広がっている――オーストラリアの科学者がこのほど、そんな警告を発した。

治療がほぼ不可能な「スーパーバグ」を発見したのは、オーストラリアのメルボルンにあるドハティ感染免疫研究所の研究者たち。英科学誌ネイチャー・マイクロバイオロジーに発表した。ドハティ研究所は、メルボルン大学と王立メルボルン病院の共同事業だ。

ドハティ研究所の発表文によると研究チームは、世界10カ国、78の研究所から受け取った表皮ブドウ球菌の数百もの分離株を調べた。そこで、ほとんどの抗生物質に耐性を持つ変異株3種類が見つかったという。研究チームは、これらが世界中に広がっていると考えており、なかでも、ヨーロッパのサンプルから見つかったものは、現在使用できる抗生物質すべてに耐性を持っているため警戒が必要だと指摘している。

DNAに異変を起こして耐性を作ったスーパーバグ

研究チームによると、表皮ブドウ球菌のこれら3種は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の近縁種。自らのDNA(遺伝子)にわずかに異変を起こして、2つの抗生物質に対する耐性を持つようになった。

オーストラリアの薬局に関するニュースを発信するサイト「ファーマシー・ニュース」はこの2つの抗生物質をリファンピシンとバンコマイシンとしている。これらの抗生物質は互いに関連性がないため、細菌がどちらか1つに耐性を持ったとしても、もう1つが効くという前提で治療が行われている。そのため現在のガイドラインでは、表皮ブドウ球菌の感染はこの2つの抗生物質を使って予防するよう定めているという。しかしこのどちらも効かないとなると、ガイドラインを見直す必要がある、と研究チームは述べている。

カテーテルなどの人工物や集中治療室が原因か

これらの表皮ブドウ球菌は通常、あらゆる人の肌で見つかるものだ。しかし体内に侵入すると感染症を引き起こすことがある。

研究チームによると、表皮ブドウ球菌が耐性を持ってしまい感染症が蔓延する原因には2つの可能性がある。1つはカテーテルや人工関節などの人工物は通常、感染予防のために抗生物質を用いており、これが原因で表皮ブドウ球菌が耐性を持ってしまうというものだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中