最新記事
BOOKS

仕事は与えること、それで誰かが救われている──哲学を人生に生かすための1冊

2020年10月23日(金)07時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ソクラテス像 thegreekphotoholic-iStock.

<今、哲学が熱い。でも難しい専門書を読んだところで、人生やビジネスにどう生かせばいいのか。分かりやすい解説で定評のある名物予備校講師が、現代の私たちに役立つ「大全」を出版した>

欧米では今、ビジネスに哲学を導入する動きが広まっている。

ビジネスと哲学は、一見、相容れないように思える。しかし、先の見えない時代となり、哲学的な思考法や洞察力がビジネスにも求められるようになってきているのだ。グーグルやアップルではインハウス・フィロソファー(企業専属哲学者)を雇っているほどである。

だからといって、いきなり難しい哲学書を読んだところで、どう理解し、どう生かしていいのか分からない。そんな人が多いだろう。

その点、新刊『この世界を生きる哲学大全』(CCCメディアハウス)は、最初の1冊として最適かもしれない。本書では、実際に起きている社会問題、宗教問題、日常の人間関係の諸問題など、さまざまな現実の問題を哲学的な見地から考察している。

著者の富増章成(とます・あきなり)氏は、河合塾をはじめとする大手進学塾で教鞭を執る名物予備校講師で、『読むだけで元気になれる哲学の教室』(王様文庫)など、多数の著書がある。

哲学を誰にでも分かりやすく解説することで定評があり、「大全」の名にふさわしいこの新刊でも、現代の諸問題と関連付けながら平易に解説。「1日4ページで"人生のコンパス"が手に入る」と謳っている。

では、哲学的な思考を身につけ、人生に生かしていくとは、どういうことなのか。『この世界を生きる哲学大全』からほんの一部だが紹介しよう。

報酬を上回る仕事をすれば、やがて返ってくる(イエスの黄金律)

「人に与える」ことは、自己啓発の中でも特に重要な分野だと富増氏は言う。与えるのは、金銭、物質的報酬だけではなく、親切な行為、賞賛・励ましの言葉など、無形のものも含む。

これは「黄金律」と呼ばれるものだ。「他人から自分にしてもらいたいと思うような行為を人に対してせよ」という、哲学と宗教の根本的ルールである。有名なのは『新約聖書』の「イエスの黄金律」だ。

人に使われている、利用されていると考えると、損をしているような喪失感を持つことがあるかもしれない。しかし、こうした「与える」ことのやり取りは、呼吸をすることと同じようなものだという。

人が息として吐いた二酸化炭素は、やがて植物が酸素に変えてこちらに返してくれる。そんな相互関係があるのだ。

これを仕事に置き換えて考えてみよう。

どんな仕事であっても、それによって、集中力、持久力、思考力など、自分のどこかが強化される。だから、対価を払ってでも仕事をする価値はある。

さらに言えば、受け取る報酬を上回るような質の高い仕事をすることで、やがてそうして与えたものが、報酬として返ってくる。その上、充実感や満足感といった精神的な報酬も得られる。ナポレオン・ヒル哲学では、これを「プラスアルファの魔法」と呼ぶ。

仕事は与えることであり、それによって誰かが救われている。例えば、水道局があるから水が出るし、下水道を管理している人がいるからトイレの水が流せる。既に自分が働いている以上の何かが、意識さえしていないところで、自分のもとに返ってきているのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中